出 版 社: PHP研究所 著 者: 濱野京子 発 行 年: 2018年06月 |
< ドリーム・プロジェクト 紹介と感想>
プロジェクトの成功の鍵は、チームメンバーの役割分担が明確であることではないかと思います。プロジェクト参画者がそれぞれ自分が果たすべき役割を理解していれば、チームとして最大限機能します。会社だと、これが職能と結びついていて、最適なメンバーが集められてくるものです。チームワークはアンサンブルであり、メンバー間の特性の違いによる相乗効果もあります。とはいえ、スウイングすることもあればギクシャクすることもあるというのは、人間関係の難しさです。これは、時代が変わってコミュニケーションの方法が変化しても、本質的に変わらないものと思います。ということで、この物語が見せてくれるのは、プロジェクト遂行の難しさの縮図です。これは中学生がチームを組んで、古民家再生のプロジェクトに挑む物語です。いえ、そのためにクラウドファンディングで資金を確保しようとしている段階のお話です。中学生は、そもそも自分の職能どころか、何が得意なのかさえわからないものですし、一緒にプロジェクトを遂行するための、人との最適な絡み方も距離感もわからないものでしょう。自分たちの夢をどうしたら人に支援してもらえるのか。プロジェクトの仲間たちとの関係性の築き方や、支援してくれる人たちへの気遣いなど、クラウドファンディングというデジタル世代の仕事体験であっても、本質的なところの苦労は一緒です。多くの人を巻き込み、関わりが深くなるほど面倒くさいものです。とはいえ、何か大きなプロジェクトをやり遂げるには、多くの人の力を借りなくてはならないのです。人の期待に応えるという責務も負います。この関係性の坩堝に中学生が飛び込んでいくストーリーは、個人的には正直しんどいのですが、ラッキーによらず夢を実現していく確実性の角度を高めていく、実に堅実な夢物語を見せてくれます。時代感を反映した新しい題材とベーシックなテーマが混淆した興味深い作品です。
中学二年生の拓真がこの頃、心配なのは、同居を始めた祖父、勇のことです。祖母が亡くなり、一人で古い家に暮らすことが難しくなって一緒に住むことになったものの、家に引きこもってばかりいて、元気がないのです。そんな折、祖父が行方不明になるという事件が起きます。捜索の後、祖父が見つかったのは、かつて祖父が住んでいた、奥沢集落の家でした。ただ広いだけの平屋で築75年も経つこの家は、売ることできないまま、無人で放置してあったのです。拓真は、祖父がこの場所での地域の人たちとの繋がりを失ってしまったことに気づき、この古い家をリフォームして、祖父が行き来することができないかと考えます。しかし、それにはお金がかかります。悩んでいたところ、拓真にアドバイスをくれたのは同級生の女子、日菜子でした。インターネットのクラウドファウンディングで資金を調達する。サイトで目的や方法、その見返りとなるリターンを提示して支援者を募るというものでした。奥沢集落に地域の人たちがくつろげる場所を作るために古民家を再生したい、というテーマを掲げて、クラウドファウンディングを主催するサイトに登録することになった拓真。期限までに目標の160万円の支援を集めることができれば、このプロジェクトは成立します。身近な人たちや親戚などに始まって、次第に支援の輪は広がっていきます。とはいえ、金も出すけれど口も出すタイプの人たちや、ネットを通じて知り合った、軽いノリの人たちなど、付き合い方が難しい相手とも絡むことになります。また、この企画を一緒に推進したいと集まってきた同級生たち同士も衝突することもあり、チームの空中分解の危機も迎えながらも乗り越えていきます。プロジェクト成立のための期限が迫る中、支援の申し出が伸び悩んでしまったまま目標に届かない状況を打開するために、拓真は「嫌な相手にも頭を下げる」ことを実行していきます。中学生が悩みながらも問題を解決していく、学びの多い成長物語です。
仕事でプロジェクト的な業務に参加させてもらった経験では、大きな計画ほど、お金があっという間に無くなったり、売上が上がったり下がったりと、気が気でなかったなことを思い出します。そもそも定時で帰れるような仕事ではないし、精神的にも肉体的にもハードなものでした。ゼロベースで考えていける楽しさもあるけれど、落ち着いたルーティン仕事ではなく、まあ、穏やかではいられなかったものです。あえて手を挙げて、そうした仕事にチャレンジしたり、ベンチャーを立ち上げるなど、若いうちに経験しておくことはお勧めします。大変なことにあえて挑めるのも人生の楽しさかと思います。おそらく、そうした経験の中で、自分にとっては何が本当に大切で、何に価値を求めているのかが見えてくると思います。何もしないより、やった方が世界は広がります。で、規模の大小はあれ、今は誰もがチャレンジできるプラットフォームが用意されていて、アイデアとやる気次第で先に進めるのです。しかしクラウドファンディングに挑むとは、例えリスクヘッジされていても、勇気がいることですね。自分を支援してもらいたいとプレゼンテーションして、人に助けてもらう。自分の考えていることや、やろうとしていることにどこまで自信を持って表明できるのか。また、否応なく人と関わることになり、その調整を行うことも覚悟しなければなりません。この物語は、自分で開ける未来がここにあるけれど、その難しさを充分に見せつけた上で、勇気を鼓舞してくれます。色々な人たちと関わらなくてはならないし、好悪の感情を超えて協力関係を築く大切さも示唆されています。人に期待してもらえるような自分なのか、なんて悩んでいるうちに人生はあっという間に過ぎていってしまうものですから、やった方がいいに決まってますよ。本当。