バドの扉がひらくとき

Bud,not Buddy.

出 版 社: 徳間書店

著     者: クリストファー・ポールカーティス

翻 訳 者: 前沢明枝

発 行 年: 2003年03月


バドの扉がひらくとき 紹介と感想 >
2000年のニューベリー賞受賞作。その翌年の受賞作であるリチャード・ベッグの『シカゴより好きな町』と同じく、1930年代末の恐慌にアメリカが突き落とされた頃の少年のお話。なにせ大人だって、この不況のどん底であえいでいるのだから、孤児で「施設」に入れられている黒人少年、バドの生活ときたら、決して、豊かなものになりようがないというもの。三回目の里子の話がもちあがり、連れていかれた先の家ときたら、これまた手ひどい仕打ちをバドに食らわせるだけ。4年前、バドが6歳の時に死んだママが言い聞かせてくれたこと『バド、おぼえておいてね。扉がしまって道がふさがれたとしても、どんなにたいへんで闇が深くても、ちゃんとべつの扉がひらくからね。心配しなくていいのよ』。その台詞を胸に、バドは、里親の家からも、施設からも逃げ出します。ママが遺してくれたのは、写真と、数字を書いた石ころと、ジャズバンドの公演のチラシ『ハーマン・E・キャロウェイと褐色の不景気なんかぶっとばせバンド!!!!!!』(この六つの!が重要なのです)。このバンドリーダーが、きっと、僕のパパに違いない。バドは父親探しの旅に出ることにしたのです。ユーモアあふれる軽妙な文章と、時に鋭い警句が冴えるユニークであたたかい少年の物語です。

困難と空腹とのたたかいの旅。十歳の黒人少年の行く手には、不況まっさかりのアメリカが待ちうけています。バドは処世術、『バド・コードウェルの、うまく嘘をつきながら楽しく生きる知恵』を駆使しながら、なんとか周囲の大人たちとわたりあい、時に親切にしてもらいながら、ついに、お目当てのジャズバンドに出会うことができます。ところが、バンドリーダーのハーマン・E・キャロウェイときたら、人をよせつけないかたくなな頑固じいさん。こんな人が自分の父親なんて、と失望は隠せません。しかも、どう考えても、自分の父親とは思えない年齢なのです。ところが、気のいいバンドのメンバーたちは、バドを仲間に加え、あれこれ世話を焼いてくれるのです。『第一印象をよくするチャンスは、たったの一回きり』なのに、バドときたら、メンバーたちと囲んだ食卓でおお泣きに泣き出してしまいました。自分の居場所をはじめて見つけることのできた喜び。バドの扉はついに開いて、さて、これからどんな毎日がはじまるのでしょうか。『バドの知恵・第三十九番 年を取れば取るほど、人間はかんたんには泣かない。年をとっている人が泣くときは、深刻だ』。バドの涙とキャロウェイさんの涙。色々なドラマがあったのですが、これは読んでのお楽しみ。粋で気さくなジャズメンたちの気風の良さがイカしています。

リアルな世界では、親や兄弟というものは、なかなか気の利いた人生訓を説いてくれるものではなく、どちらかといえば、功利的な処世訓ばかりを、口うるさく言うものではないかなと思います。小さい頃から『扉がしまって道がふさがれたとしても、どんなにたいへんで闇が深くても、ちゃんとべつの扉がひらくからね。心配しなくていいのよ』、そう言い聞かせてもらえていたなら、人生につまずいた時、少しは光明が見出せたのではないだろうか、なんて思うこともあります。うまく世の中を歩けない、不器用にしか人生を渡れない子どもには、それなりの励ましが必要なのかも知れませんね。まあ、処世術は自ずと身につくものですが。

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