プリンセス・アカデミー

Princess Academy.

出 版 社: 小学館

著     者: シャノン・ヘイル

翻 訳 者: 代田亜香子

発 行 年: 2009年06月


プリンセス・アカデミー  紹介と感想 >
プリンセスだよ、全員集合!。ということで、二十人もの女の子たちが山から集められ、競い合いながら、プリンセスになるためのアカデミーが創設されました。そこでは先生の厳しい指導のもとに、行儀作法や会話術、外交術、国の歴史を学び、王子様のお妃になる基礎教養を身につけるのです・・・。そんな物語の概要を見て、今どきの児童文学やYAで、本当にこのストーリーなのかと疑問に思いましたが、2006年度のニューベリー賞オナー受賞は伊達じゃないと思わせる出来ばえの作品でした。見事に整っている。児童文学的要素が過不足なく織り込まれた上に、古典的な題材に新奇な観点がミックスされていて、不思議な完成度を見せています。当然のことながら、「王子様からお妃に選ばれてプリンセスになるのが女の子の幸せ」なんて、前時代的な価値観はここにはなく、考え深く、聡明に生きる術を「教育」によって獲得した女の子が、自分の能力で周囲の世界を変えていく、そんなワクワクするようなお話となっています。しかも適度に謎やサスペンスが織り交ぜられていて、愛情にもあふれている。僕のような剛のモノには、とても手が出しにくい感じの本なのですが、先入観に捉われずに片っ端から読むという、このところの読書姿勢が個人的には奏功した一冊です。

代々、神官の託宣により王子様のお妃候補を決めてきた国、ダンランド。このたびは過去に例がないことに、エスケル山に住む娘の中からお妃を選ぶべし、との占いの結果が告げられました。同じ国の一部だとはいえ、エスケル山はリンダー石を切りだすことを唯一の産業としている未開の山村があるだけの辺境の領地です。そこに住む女の子たちと言えば、文字も読めない、山の娘たちなのです。自分たちの意思にかかわらず、徴用された十七歳以下の女の子たちは、すべからく王子様のお妃候補として舞踏会の日までにしかるべき教養を身につけるべく、学習を課されます。それが「プリンセス・アカデミー」。女の子たちのアカデミーでの寄宿生活がこうしてスタートしました。先生のオラーナは厳しく、ヤギの臭いがする山の娘たちをレディにするべく、その指導には容赦がありません。十四歳のミリは年少ながら、アカデミーの中で、だんだんと頭角を著わしていきます。村の生活では、父親に石切りを手伝わせてもらなかったことで、ひ弱な自分にコンプレックスを感じていたミリ。そんな彼女が、この学校で沢山のことを学び、狭い山村では知りえなかった世界を獲得していきます。それぞれの思惑を抱きながら、プリンセス候補の女の子たちはアカデミーでの生活を送り、やがて王子様との対面の日がやってきます。一体、王子様にお妃に選ばれて、プリンセンスになるのは誰なのでしょうか・・・。

面白いなと思ったのは、学習することへの適応能力が高いミリの関心が、外の世界にではなく、自分たちの村を見つめなおすことに向けられることです。例えば、エスケル山の主たる産業である、石切り、について。切りだされるリンダー石の稀少性と、その価値はどういう関係があるのか。自分たちがもっと豊かに暮らすためには、商品価値を正しく評価してもらい、商人たちと対等に交易する必要がある。取引をもっと上手く行うためにはどうしたらいいのか。学習から得た広い見識を村のみんなのために役立てたいとミリは考えます。また、石切りの現場で使われている、クウォリースピーチという不思議な伝達方法の研究にもミリは関心を持っています。石切りたちが、互いに危機を知らせたり、警告を与えるためだけに使われていたこの伝達方法を、もっと他のことに活用できないのか。ミリはプリンセスになることよりも、こうした研究に強く惹かれていきます。無論、その賢明さから、アカデミーでも優秀な成績を修めるのですが、果たして、そんなミリのことを王子様はどう思うのでしょうか。アカデミーで学んだ外交術で交渉を成功させたり、クウォリースピーチの特性を使ってピンチを切り抜けたりと、ミリの能力が発揮されていきます。知識と学習能力を身につけたミリには、一体、どんな将来が待っているのでしょう。『プリンセス・アカデミー』というタイトルながら、ありがちなプリンセス・ストーリーではないのが本書の魅力。女の子にとって、王子様のお妃になることだけが「プリンセス」ではないのだ、という答えが導かれます。毅然として、賢く、へつらわず。そう、「だって女の子は誰でもプリンセスなのだから」なのですよ(誤用か?)。

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