出 版 社: 佼成出版社 著 者: おおぎやなぎちか 発 行 年: 2020年08月 |
< 俳句ステップ! 紹介と感想>
おおぎやなぎちかさんは児童文学フィールドで活躍されている作家さんですが、俳人としての活動もされており、小学生向けの俳句の入門書も著述されています。俳人が物語仕立てで俳句入門を書かれている小説もありますが、本書は児童文学作家おおぎやなぎちかさんが、俳句をテーマに小学生三年生を主人公にした中学年向けの児童文学作品として味わいのある物語世界が描き出されています。小学三年生の七実(ななみ)は、同じクラスの、はなやかな女子のグループにも、優等生グループにも入れない、大人しくてひっこみじあんな子です。おしゃれな子や、てきぱきとした子たちと一緒だと思わずうつむきがちになってしまう。そんな七実に他の子と違うところがあるとすれば、俳句を作っていることでしょう。公園で、薫子(かおるこ)さんというおばあさんと偶然、知り合った七実は、俳句を詠むことを教えられ興味を覚えます。人前で言いたいことをいつも言えず、だまったままの七実。そんな七実は思いついた言葉をメモして俳句らしきものを作るようになりました。学校で遠足に行った時も、七実は一人、目に入ってきた光景を俳句に読んでいました。その時に作った俳句が、市の新緑まつり俳句大会の子ども俳句大賞を受賞したのです。しかし、教室で先生が発表した作者の名前は、七実ではなく、クラスの優等生、早知恵(さちえ)だったのです。自分の俳句が盗まれことに悔しさを感じながも、勉強ができない自分がこの句を作ったと言っても誰も信じてくれないだろうと諦めてしまう七実。物語は、早知恵がなぜ俳句を結果的に盗むことになってしまったかも照らし出していきます。それもまた故意ではなく、誤解が重なった結果なのですが、優等生であることに、ちょっと息苦しさを感じていた早知恵の心に、苛責と同時に俳句を詠むことで別の自分になれることを気づかせます。さて、物語は二人の間に生まれた問題を解決させるために、直接話をさせる機会を与えます。薫子さんの計らいで、七実と早知恵は句会を行うことになり、互いに教室での自分ではない自分として俳句を作り、ちょっだけ心を近づけていきます。自分のリズムで言葉を表現する。俳句を通じて新しい世界を見つけていく子どもたちの爽やかな姿が描かれていく好編です。