黒猫オルドウィンの冒険

三びきの魔法使い、旅に出る
The familiars.

出 版 社: 早川書房 

著     者: アダム・ジェイ・エプスタイン&アンドリュー・ジェイコブスン

翻 訳 者: 大谷真弓

発 行 年: 2010年11月


黒猫オルドウィンの冒険  紹介と感想 >
ブリッジタワーという町に暮らす野良猫オルドウィン。親の顔なんて最初から覚えていない、生まれながらの孤独な一匹猫。都会の町中で危険な野良猫の暮らしを続け、安らぐ暇もない毎日。それでも、頭が切れるオルドウィンは、その知恵と機転で、これまでも幾多のピンチを切り抜け、沢山の武勇伝を作ってきました。とはいえ今回は大失敗。盗みに入った魚屋で、うっかりワナにはまり、辛くも逃げ出したものの、今度は残忍な害獣駆除業者に追われる始末。逃げ込んだ先は、沢山の動物たちがいる不思議な店。そこは魔法使いが「使い魔(ファミリア)」となる魔法の力を持つ動物を買い求めにくるショップだったのです。若い魔法使いのジャックは、自分と同じ目の色をしたオルドウィンを、紛れ込んでいたただの野良猫と気づかないまま買って帰ります。驚いたのはオルドウィンです。ちゃんとした食事を与えられて、休むところもある。そして、ジャックは自分に対して愛情を示してくれる。オルドウィンは思ってもみなかった温かい生活のはじまりに驚き、喜びます。ところが、そんな日々は長く続かず、突然、現れた魔法の国の女王に、ジャックは二人の兄弟弟子とともにさらわれ、ジャックの魔法の師匠も殺されてしまいます。残されたのはオルドウィンと、ジャックの兄弟弟子たちの「使い魔」である二匹。アオカケスのスカイラーとアマガエルのギルバート。こうして三匹は、自分たちの主人(ロイヤル)を救い出すため、冒険の旅に出ることになるのです。

ということで、ざっくりと導入部分をまとめてみました。読み始めると止まらない。しかもなかなかコクがある。これは、かなり面白い読み物です。魔法使いの「使い魔」である三匹が、それぞれクセのある性格で、そのやりとりがユニークなんですね。おしゃべりで辛辣、魔法の知識をひけらかしてばかりのアオカケスのスカイラー。彼女はまぼろしを作りだす能力を持っています。アマガエルのギルバートはのんびり屋で単純。彼の能力は未来を見通す力ですが、たまに未来のビジョンが見えるだけで、あまり役に立つことはありません。そして、オルドウィンは、魔法の力がないのに、念力とテレパシーが使える猫だと思われています。仲間たちに正体がバレるのを恐れながらも、まあ、その時はその時と開き直るオルドウィン。実際家で、クールな彼の性格もなかなかいいんですね。孤高の野良猫として生きてきたオルドウィンは、ジャックの示してくれた愛情につき動かされて、この困難な旅をやり遂げようと思うようになっていきます。オルドウィンの知恵や機点が功を奏して、幾多のピンチを切り抜けながら、三匹は少しずつ主人のもとへと近づいていく。巨大な魔法の力を持った女王を守っているのは、七つの頭を持つ凶暴なドラゴン。主人を助けるために三匹はその力を結集して戦いを挑みますが、さて、どうなるのでしょうか。

猫が主人公の物語ということで、猫好きの方にはそれだけで魅力がある作品かと思います。オルドゥインには町の野良猫としてのたくましい生活力とプライドがあり、毅然としたカッコ良さがあります。ところがジャックの「使い魔」になって以来、時折、気まぐれな面も顔を出すけれど、やや従順な家来になってしまったような気もするのです。強がっていても、やっぱり寂しがり屋だったのかな。けっこう、複雑な性格でもある。カエルのギルバートも、厳格な父親にほめられてもらったことのない自分に劣等感を感じていたりと、他の動物(両生類)たちも、心に色々と抱えていて、そんなディテールがいいんですね。動物同士はみんな言葉が通じる設定で、その会話がとても楽しい。登場する人間たちよりも、ずっと個性豊かな動物たちが織りなす物語は実に良く出来ていて、子どもから大人まで、広い年齢層に楽しめる作品となっているかと思います。ところで、物語の中のお気に入りの猫キャラクターと言えば、イッパイアッテナさんか、「サブリエル」に出てくる白猫モゲットです(まあ、モゲットはもともと猫じゃなかった気がするんだけれど)。要は風格です。クールで、策士で、何でも知っている知恵者。時にきまぐれ。そんな感じがいいですね。

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