おちゃめなパッティ 大学へ行く

When Patty went to college.

出 版 社: 復刊ドットコム 

著     者: ジーン・ウェブスター

翻 訳 者: 内田 蔗

発 行 年: 2004年05月

おちゃめなパッティ 大学へ行く 紹介と感想>

「おちゃめ」という言葉の意味は『無邪気で子どもっぽいいたずらをすること』だそうです。「おちゃめ社長」とか、昭和感あふれる四コマ漫画のタイトルを考えてしまいましたが、やはり責任ある立場の人が、おちゃめじゃ困るだろうが、という気もします。おちゃめがゆるされる限界点はどこかというと、やはり中学生ぐらいでしょうか。西暦1903年、ライト兄弟が初飛行に成功した年。その11年後には第一次世界大戦が始まるという頃、この作品『おちゃめなパッティ 大学へ行く』は書かれました。100年以上前の少女小説です。それなりの良家の子女で、エリートであったろう当時の女子大生が、こんなに「おちゃめ」でいいのかという気にさせる、危なっかしい物語です。この作品の後に書かれた続編(なのに時間軸では前編にあたる)、パッティの寄宿舎学校時代を描いた『おちゃめなパッティ』(『女学生パッティ』)の方がまだ落ち着いているのではないかと思うほど、本作のパッティは弾けています。この作品が『あしながおじさん』で知られるウェブスターの第一作となるそうです。ウェブスターは三十九歳で亡くなった夭折の作家ですが、本書は彼女が大学卒業間もなく雑誌発表された作品であり、当時のウェブスターの若い感覚が漲っています。一世紀以上前の女子大生の「女学生気質」というものが伺えて興味深いところですが、現代のガールズもののような繊細さや、行間から感情を仄かに捉えさせるような描写は皆無で、ちょっと共感には距離があるかも知れません。後に『あしながおじさん』のようなロマンスの世界を紡ぎ出した作者の修行時代の作品として、このはじけるエネルギーを感じて欲しいところです。本作は長い間、絶版となっており、復刊ドットコムの読者リクエストにより復刊された一冊です。

自分が大学の新入生で、こんな先輩がいたら困るなと思わせる人、それがパッティです。明るくて根は善良な人だということはわかるのですが、なにせ、やんちゃが過ぎます。大学四年生にもなってこんなことするかなというようなイタズラや、ユーモアではすまないようなマネをして、周囲に失笑だけでなく、かなりの迷惑をかけてしまう存在です。決してワルではないし、サボりはするけれど劣等生というほどではなく、得意な学科もあるけれどとくに際立ったところがあるわけでもないパッティは、自分の存在意義を「おちゃめ」にかけているのかと思わせるほどの無茶苦茶をします。女学生の悪ふざけ程度のことではあるのですが、ちょっとしたイタズラが思わぬ事件に発展して冷汗をかくこともしばしば。時として、寂しさに沈む後輩を明るく励ましてみたり、思わぬ騒動に巻き込まれて、皆の笑いをさそってみたり。最後には、やがて大学を卒業して大人になる自分は、いつまでもこうしていられないなあなんて、ちょっと感傷的になってしまったり。たくさん騒動をまき起こすけれど、憎めないし、いないとなれば寂しい、そんなパッティの存在感が、明るい笑顔をもたらしてくれる作品です。当時のアメリカの幸福な部分だけを切り取ったような、女子大生の楽しい学生生活がここにあります。

児童文学や西欧少女小説が好きな方たちには「角川文庫のギンガムチェック」という符丁で通用する選集がありました(まだ覚えておられる方もいるでしょうか)。1900年前後の家庭小説、少女小説を集めた企画物でしたが、こんな本もあったんだ、というラインナップへの驚きがありました。過去にもいくつか、この時代の少女小説や家庭小説をメインにした選集もありましたが、ひとつの文学潮流として隆盛をきわめていた作品群だと思うのです。須賀敦子さんが、ご自身の読書遍歴を綴った『遠い朝の本たち』の中で『ケティ物語』のケティについて触れられていましたが、読書好きの方には誰しもが一緒に過ごした心の中の「友だち」がいるものなのかも知れず、かつて、この本の旧版を手にとられた方にとってはパッティもその一人であったんだろうなと思います。読書好きの方には、何故か『あしながおじさん』よりも『続あしながおじさん』の方が評判が良い感はありますが、主人公のちょっとしたタイプの違いが、友だちを選ぶポイントなのかも知れません。