出 版 社: 作品社 著 者: ロレッタ・エルスワース 翻 訳 者: 代田亜香子 発 行 年: 2009年11月 |
< とむらう女 紹介と感想 >
「死」の当事者になることについては、相変わらずスタンスを決めかねていますが、見送る側の立場は、それなりの経験を積んで、心の決着をつけられるようになってきました。無論、大いに悲しく、悔やまれるばかりなのだけれど、それでも受け入れていくしかないのだと、半ば諦めつつです。「お葬式」は遺された人たちの痛みを緩和するためのものかも知れず、悼む気持ちを表すことで、勝手ながら楽になれることもあります。この物語に登場する「おとむらい師」は、死者の衣服を調え、粧い、死出の門出を飾る仕事です。南北戦争の頃まであったもので、主に女性が務め、忌まわしく思われるどころか、むしろ人々に尊敬される職業だったと言います(その後、時代は進み、死体の防腐処理は男性業者の仕事になってしまったのだとか)。話題になった映画『おくりびと』の納棺師のように人間の最期を飾る仕事。「おとむらい師」は、死者を、そして見送る人たちを、どのようにいたわり、埋葬のしたくをしたのか。これは「おとむらい師」である伯母、フローを見つめる少女イーヴィの心の成長の物語です。イーヴィが母親を失った痛みから回復して、自分の進む道を見つけだしていく、穏やかで、それでいて力強い作品です。
パパと幼い二人の娘を遺して、イーヴィのママは病気で亡くなりました。遠くに住んでいたパパのお姉さんであるフローおばさんが引っ越してきて、一緒に暮らし、家族の世話をしてくれることになったのですが、イーヴィの気持ちは複雑です。何故って、おばさんは「おとむらい師」だからです。町の人たちはおばさんが来てくれたことを歓迎していますが、ママが亡くなったことの痛手から立ち直れないイーヴィは、死に対して敏感になっており、おばさんの職業に対しても懐疑的です。イーヴィはおばさんのことを受け入れることができないでいました。もしママが生きていたらと思いながら、引き比べてしまうことばかり。意地を張り、頑なになっていたイーヴィの心はそれでも、やがてほどけていきます。自然の営みのように穏やかに、時間の経過が見せる心の成長を丁寧に描いた作品です。
心はだんだんと回復するものだと思います。一足飛びに「気づく」ことはなく、すこしずつ積み重なったものが、やがて自分の中の意識をちょっとずつ変えていくのです。季節の移り変わりととともに、人間の心もゆっくりと変化していきます。五歳の妹のメイよりも、多感な時期に母親を亡くした十一歳のイーヴィが、その死を受け入れるのには、相応の時間がかかります。人に心のやすらぎを与える「おとむらい師」である伯母の仕事を手伝いながら、イーヴィの心には、新しい気持ちが生まれていきます。植物が芽吹き、成長していくように、心の傷も癒されれていく。丁寧で丹念に、自然の描写ともに繊細な心の動きを捉えた美しい作品です。