どすこい!

出 版 社: 国土社

著     者: 森埜こみち

発 行 年: 2023年01月

どすこい!  紹介と感想>

相撲中継をそれほど真剣に見たことがなく、スポーツニュースを横目で流している程度の相撲知識しかありません。その魅力も良くわからず、どこが見どころなのだろうかと思っていました。本書は、少年相撲に夢中になっている子どもたちを主人公にした物語であり、今まで知らなかった相撲の世界を教えられた一冊でした。すいません、これ、一般常識だったのかも知れないのですが、相撲の勝負の開始は行司が決めているわけではなく、力士同士の呼吸が合い、ぶつかり合ったところから始まる、というのは驚きでした。行司の、はっけよいの掛け声は試合開始のゴングではないのですね。あらためて相撲中継を見たところ、なるほど、力士がぶつかり合った後から、行司は、のこったを言い始めている。この力士同士が試合開始を決めているというあたりや、またそこに生まれる駆け引きや緊張感には興味を引かれました。そんな発見の多かった少年相撲の物語です。相撲に夢中な小学六年生の二人の少年が、相撲大会で強力なライバルに勝つために、元力士だという駄菓子屋の店主に弟子入り志願をします。これも一般常識かも知れませんが、昔ながらの駄菓子屋の店主は、子どもに愛想が良くないものです。自分も昭和の子どもなのでこれは良く知っています。店主(たいてい、おじいさんおばあさん)と子どもたちの間には妙な間合いがある、というのは、子どもの頃に駄菓子屋に通われたことのある世代には懐かしい思い出かと思います。子ども相手の商売をしながらもフレンドリーではないんですよね。駄菓子屋の店主にお願いごとを聞いてもらうということのハードルの高さを思います。相撲に夢中なノンキな少年たちが、大人の深い人生を垣間見る。細かいところで言葉のセンスが光る森埜こみちさんの楽しい物語です。

相撲大会でよその学校の同じ六年生の少年、真壁豪(ごう)に完敗してしまった凡(ぼん)と健太(けんた)は、秋の学校対抗の相撲大会でなんとかリベンジしようと策を練ります。男子の対抗戦は同じ小学校から2チーム出場できるので、自分たちが大将となれるだろうかと二人は考えます。下級生を率いるからには強くならねばと思うものの、先生には勝負よりも楽しむことを勧められた二人は物足りません。そんな折、駄菓子屋の「わしや」の店主であるじいさんが、元大相撲の力士だったということを二人は聞きつけます。弟子入りをしようと思うものの、偏屈なじいさんである、わしやに首を縦に振ってもらえるのか。案の定、商売の邪魔だと言われ、素気無くあしらわれる二人でしたが、客として日参して、ちょっとずつですが、わしやから指導を受けられるようになります。いや、シコを踏んでも「なってねえな」と言われるばかり。すこぶる愛想がないのです。わしやに通い詰めた二人は、それでも少しずつ、勝負のコツを伝授されます。もっとも、その真髄は、自分の頭で考えろというのが、わしやのアドバイスです。どうやったら強い相手に勝てるのか。大会当日の高まる緊張感の中、強豪を相手に回して、凡と健太は死力を振り絞って、勝負に挑みます。

少年は自分なりに創意工夫を重ねていくものです。大人から見れば馬鹿馬鹿しいようなことに真剣になって努力をする。商店街の福引を当てるために研究を重ねる少年の物語もありました。この物語でも相撲の稽古のかたわら、駄菓子屋のくじ引きの当たりを引くために、その傾向と対策を考え抜くあたりも面白いところです。この本の裏表紙には沢山の目玉クリップが等間隔に配置された木箱が描かれています。これが作中に登場する、駄菓子屋の手作りのくじ「ことん」です。箱の上のクリップに結ばれた紐の先についた箱の中の当たり札を、宝釣りの要領で引く仕組みです。当たればアイス。ハズレは飴です。二人は相撲を教えてもらうために、毎日、このくじを引くものの、まったく当たりません。もしや当たりが入っていないのではと疑ってしまうほどです。実はこのハズレ続きが、わしやの店主のズルではなく、駆け引きであったということがやがてわかります。当たりを入れながらも、どうやってその紐を子どもに引かせないようにするか。これもまた真剣勝負だったのです。寡黙な仏頂面のじいさんが、そんな勝負を少年たちに仕掛けていようとは。ボーイミーツオールドボーイの駄菓子屋空間は、年齢を越えた少年同士の闘いの場でもあったのです。「相手がどう動くか読め。読んで攻めろ」。それがわしやの教えです。不器用で人あたりもよくない人物ながら、努力の人であるわしやは、怪我で一線を退かざるを得なかった力士時代と同じように、懸命に駄菓子屋の商売をしていました。そんな大人の姿に、少年たちが向ける眼差もまた読みどころです。ところで、学校一太っているというのが凡です。思春期にデブであるということは、自分の体験からしても、なかなか複雑な心境であるものです。それなのに、体重なら誰にも負けない、なんて誇らしげなのが凡の良いところ。家が中華料理店の凡は、のびたラーメンだって「これはこれで、うまい」と食べてしまうのです。デブキャラはこうありたいものだと、自分の卑屈な少年時代に鑑みて思います。ああ、小学生時代に太っていると相撲が好きだと思われがちです。人は見かけによらぬものなのですよ。