はいけい女王様、弟を助けてください

Two weeks with the Queen.

出 版 社: 徳間書店

著     者: モーリス・グライツマン

翻 訳 者: 唐沢則幸

発 行 年: 1998年03月


はいけい女王様、弟を助けてください  紹介と感想 >
もう手遅れで、どんな手を尽くしても、自分の大切な人を助けることができない、という運命があることを、幼い心が受け入れるには、時間がかかるものだと思います。結局、人間は、絶対死から逃れられないし、遅かれ早かれ、その命が尽きることは必定です。しかしながら、愛する人が、苦しみながら、その命をすり減らしていくのを、なにもせずに見ていることはどうしてもできない。ましてや、自分より小さな命なら、なおさらのことです。コリンの弟のルークが、突然、倒れてからというもの、両親は悲嘆にくれ、その検査結果が届くたびに、失望の淵においやられました。コリンは、ルークが治療をしている間、両親がかかりきりになるため、イギリスの親戚の家に預けられることになりました。コリンもルークの病気がもう治らない、ということを知り、ひとつの決意をしました。イギリス女王に会って、世界一の名医を紹介してもらい、ルークのために連れて帰ろう。ところが、コリンの女王様への謁見作戦は、ことごとく失敗。手紙を出しても、なしのつぶて。最後は、自分でガン治療の名医を探し出して、ルークの待つシドニーに連れて帰るしかない、と覚悟を決めたのです。

有名なガン病院でコリンが出会った青年、テッドは、人目もはばからず、大声でしゃくりあげて泣いていました。コリンは大人がこんなふうに泣くなんて、とその姿に驚き、声をかけます。『友だちがあそこに入院しててな、すごく悪いんだ』、コリンは、それが、ただの友だちではないことを感じとります。きっと、恋人なんだ。『ふだんは平気なんだけれど、一週間に一度、どうしても泣かずにはいられなくなるのさ』。テッドは、知りあいのガン治療の先生をコリンを紹介してくれました。しかし、ルークの病状をシドニーの病院に問い合わせた先生が、コリンに告げたのは、もうルークはどうにもならないということ。失意に沈むコリン。そして、親しくなったテッドが、不良たちに襲われて大怪我をしたことを知ります。テッドは、ゲイ(同性愛者)で近隣の人間から執拗な差別を受けていたのです。テッドの恋人の青年グリフは、エイズからガンを発症し、もはや助からない状態。怪我をしたテッドに代わり、グリフを見舞ったコリンは、彼とも親しくなります。気持ちの優しい、仲睦まじい、二人の青年、そして恋人同士。しかし、運命は二人を非情にも引き裂きます。グリフの死を看取ったテッド。二人が最後まで一緒にいたんだ、ということの大切さをコリンに伝えるテッド。抱えきれない悲しみで、泣きじゃくるテッドとコリン。そして、コリンは気づきます。自分が、今、一体、何をすべきかということを。シドニーに帰って、ルークの側にいなくては・・・。コリンは、「一番大切なこと」に間に合うのでしょうか。

決して、ハッピーエンドを迎えられない不治の病や、ゲイの恋人たち、など、児童文学としては、驚くような素材を、重くせず、ユーモアを交えながら、それなのに、一杯、泣かされてしまう暖かい作品にしあげてしまうのがモーリス・グライツマン。この『はいけい女王様、弟を助けてください』も、胸に深くつきささる世界を持っています。決して、奇蹟は起こらない。この現実の中で、それでも生きて、人を愛していくということの尊さを謳う、グライツマンの世界に、是非、触れてみて欲しいと思うのです。安直な子どもの本でも、ご都合主義でもない、悲しみと正面から対峙して、光るものを見つけ出す、そんな気持ちを抱かせる作品だと思います。お薦めです。