夜行バスにのって

Sixten.

出 版 社: 偕成社

著     者: ウルフ・スタルク

翻 訳 者: 遠藤美紀

発 行 年: 1998年01月


夜行バスにのって  紹介と感想 >
シクステンは男の子。夜行バスの運転手の父さんと二人暮らし。母さんは父さんと離婚して出ていってしまって、今は別の人と結婚している。シクステンが心配でならない父さんは、沢山の愛情をシクステンに注いでは、あれやこれやと世話を焼くのだけれど、シクステンもそろそろ、ひとりでいるのが楽しい年頃。『ようするに、おまえの父さんは結婚するべきなんだよ』と友達のエンテは言うけれど、さて、どうやって、父さんにピッタリの女性を見つけようか…。スウェーデンを代表する児童文学作家、ウルフ・スタルクの心温まる児童文学です。

元ボクサーの父さんは不器用で、調子っぱずれ。シクステンを愛してやまない父さんだけれど、案外、洗濯物のことには気がまわらなかったりして。シクステンは着るものがないから、夏だというのスキーパンツにウールのセーターを引っ張り出して、でも『流行ってるんだ。父さんは全然気づかないだろうけど』なんて言ってみたり。なかなか子どもながらに気を使う。父さんの前では楽しそうなフリ。どうにも健気でいじらしい。新聞の交際欄で見つけた女性に父さんを引き合わせる作戦は、果たして成功するのか。『夜中にバスを運転するのは、すばらしい仕事さ。街のくらい道を月が照らし、何千もの星が真珠のようにきらきらかがやき、ひとりぼっちの窓にはまだ明かりがともっているんだ』。父さんのバスに乗って、夜を走り抜けるイメージを思い浮かべながら迎える幸福なラストシーンは、いや、どうにも微笑ましかったりします。

僕も父子家庭に育ったので、リアリティとしてシクステンの生活の大変さがわかるのですが、本当に大変なのは、やはり父さんで、シクステンほど父親を思いやることもできなかったことに後悔があります。一抹の痛みを伴うところに、大人が読む児童文学の余韻はあったりするのですね。