出 版 社: 小学館 著 者: にしがきようこ 発 行 年: 2018年07月 |
< ぼくたちのP(パラダイス) 紹介と感想 >
中学二年生の優太は転校先の学校で、できあがった人間関係に入っていくことに苦労していました。人見知りでフレンドリーなタイプではない。それでも、いい人と思われたいし、弱みは見せたくない。プライドが高い雄太はそんな学校生活でくたくたになっていました。夏休みは人と話をするエネルギーを使わない省エネの夏にしようと思っていたのに、両親が遠出することがきっかけで、おじさんの別荘に泊まりに行くことになります。うかつにおじさんについていくことにしてしまったものの、アパート暮らしのおじさんがどうして別荘を持っているのか。その謎は次第に解けていきます。別荘といえば高原のはずなのに、おじさんの別荘に行くには山をひたすら登り続けるのです。標高1,700メートルを越え、植物が生育しない森林限界も突破して、歩き続けて五時間。ついた場所には三角屋根の窓のない建物があります。それは山に登る人のために用意された避難小屋でした。そこで待っていたのは四人の男子大学生たち。研究者であるおじさんと、その研究室の大学生たちと一緒に過ごす優太の夏休みの日々を描く物語です。ゲームもスマホもない時間を、現代の中学生である優太はどう過ごしていくのでしょうか。
おじさんの研究室は環境保全をテーマに、この山を研究の場所としてフィールドにしていました。リーダー、ホク、ユイ、長老と名乗る四人の大学生男子はおじさんの研究室の学生で、毎夏、この山小屋で過ごしているというのです。山が不用意に荒らされないために、彼らは登山者のための道を作っているところでした。優太もそんな活動に参加してみたり、バーベキューの肉争奪戦に加わったりと、今までとは違うアクティブな日々を過ごすことになります。山の自然環境の成り立ちを知り、その美しさにも心を奪われます。しかし、ここは危険と隣り合わせの山の上。天候の変化が激しく、濃霧で前が見えなくて道に迷うこともあれば、豪雨やカミナリが命とりになることもあります。カミナリ恐怖症のため、その気配を敏感に察知する優太は、自分の体質が恥ずかしく、ずっと隠そうとしてきました。ところがここでは、その感覚が危険を予知することに役に立つと言われたのです。山で過ごす日々の中で、仲間と認められていることを優太は実感していきます。雄大で美しい景色の中に仲間と一緒にいることを心に焼きつけたいと思うほど、優太の意識は変わっていきます。おなかが空いて目がさめる。自然を素直に感じていく。山を下りる日がくるのを惜しいと思うようになった頃、自然の猛威による大きなトラブルも勃発します。かたくなだった少年がひと夏の経験で、その心を解放されていく物語の典型ですが、清々しい読後感があります。
大学生たちがとてもユニークで楽しいキャラクターを見せてくれます。一浪、二浪どころか、社会人になってから何年もかかって大学生になったため、長老と呼ばれている人もいます。優太のおじさんの活動に意義を感じてここに参加している彼らは、普通のキャンパスライフを送っているタイプの学生とは違っていて、ちょっとした猛者たちという感じです。そんな彼らが、互いにふざけあったりしながら、優太に対して色々な刺激を与えていきます。自分のように大学生だった頃から随分と時間が経ってしまうと、大学生なんてまだまだ子どもだったなと思ってしまうのですが、中学生目線ではけっこうな大人に思えるかしれません。この物語の大学生たちはどこか、1970年代の大学生のイメージがあります。酒を飲み、本を読み、人生を語り、大いに失恋する。そんな青年たちです。全然、カッコ良くはないし、モテないだろうと思うんだけれど、憧れてしまうような自由な気質を持っています。この作品の大学生たちには、自分が中学生の頃に読んだ半村良さんの『亜空間要塞』に登場したSFマニアの青年四人組を彷彿とさせられました。あの中学生当時の自分がいいなあと思っていた古き良き青年たちです。