パパのメールはラブレター!?

The naked mole-rat letters.

出 版 社: 徳間書店

著      者: メアリー・アマート

翻 訳 者: 尾高薫

発 行 年: 2011年12月


<  パパのメールはラブレター!?  紹介と感想>
フランキーは戸惑っていました。成績はオール5だし、性格も良いし、なにごともカンペキだったはずの自分の評判が、今や、ドンドンと落ちてきているのですから。実際、このところのフランキーは、先生や友だちからも、オカシクなったと思われています。いや、実際、オカシクなっていたのです。それもこれもパパがネズミ女と親しくしているのがいけないのです。フランキーは怒っていました。ママが死んだ後、フランキーは二人の弟たちの面倒を見ながら、楽器店に勤めるパパと一緒に、家族四人で仲良くやってきたはずなのです。それなのにパパときたら、フランキーが知らないrat-lady@(ネズミ女@)なんてメールアドレスの女の人にラブレターみたいなメールを書き送っているのですから。どうやら、パパがワシントンDCに出張に行った時に親しくなった女の人のようです。子どもたちへのワシントン土産のセンスが良かったのも、その女の人が選んだからだったとは。フランキーは悔しがります。家族共有のメールアドレスだから、パソコンを開けばフランキーもパパのメールを見ることができます。なんとしても、パパがネズミ女と親しくするのを止めさせなくては。フランキーはネズミ女のアドレスに、文句のメールを書いて送りつけます。ところが、ネズミ女ときたら、フランキーの怒りにもまったく動じず、優しくほほえみかけるような調子で返事をくれるのです。さらに、フランキーと親しくなりたいとまで言ってくるのです。彼女の名前はアヤーナ。ワシントンの動物園でハダカデバネズミの飼育係をしている女の人でした。アヤーナの余裕のある態度に、火に油を注がれたフランキーは怒り心頭で、どうにかしてパパの恋愛を阻止しなければと考えます。12歳の多感な女の子が、父親の恋愛を前にして、あわてふためきながら、二人の関係をぶち壊そうとムチャなメールを書き続ける。豊かなユーモアを持った大人の女性であるアマンダと、血気盛んなフランキーのやりとりが実に楽しく、ずっと微笑みっぱなしで読んでいられる好編です。

もう、ふんだりけったりです。学校の演劇の出演者オーディションでは、主役に選ばれないどころか、端役しかもらえないし、パパの恋愛を阻止するためにメールチェックが欠かせないから、嘘をついて劇の練習をさぼらなきゃならない。勉強もおろそかになってきて、カンニングをしなければならないほど追い込まれる始末です。しかもアヤーナときたら、家のアドレスだけでなく、パパの仕事用のアドレスにまでメールを送ってくるのですから。なんとしても、アヤーナからのメールをチェックしたいフランキーは、同じクラスのパソコンにくわしい少年、ジョニーに、パパの仕事用アドレスの中身を見られるように方法を教えてもらいます。このジョニーが変わった少年なのです。いつも遠い目をして、薄笑いをうかべ、トラブルばかりを起こす子として先生からマークされている問題児。一緒にいるところを誰かに見られたら、自分の評判がさらに下がってしまうかも。なんて思っていたフランキーでしたが、ジョニーとちゃんと話をしたことで彼の以外な一面を知ることになります。しかも、彼は、フランキーのことをいつも良く見ていて、評価してくれていたのです。二人の間に、なんだか好意のようなものが芽生えます。それなのに、周囲の意地悪や無理解によって誤解を受けて、フランキーはジョニーを傷つけるようなことになってしまいます。心ならずも、人の気持ちを踏みにじることの罪の重さを知ったフランキー。悩めるフランキーが相談したのは、誰あろうアヤーナでした。一方、パパも、自分が恋愛にかまけていたために、フランキーがオカシクなったことを反省していました。そして、アヤーナとは別れることを決意してしまうのです。さて、フランキーはどうするか。ユーモアあふれる楽しい作品ながら、それでいてグッときてしまう。なかなかの傑作でしたよ。

ママハハというのは、ママとハハがいるってことだから、二倍、素敵なことなんだよ、というのは、昭和初期のユーモア小説に出てきたセリフだったと思います。とはいえ、パパの新しい奥さんになろうという人には、そう穏やかに対処できない、というのが、ごく普通の娘心なのでしょう。死別した最愛のママのことを、パパはもう忘れてしまったのか。恋人なんて作って、メールで詩なんて書き送っているなんて耐えられない。しかもパパは、そのことをちゃんと自分に話してくれなかったのです。こうして娘は荒れているのに、パパはどうして娘がそんなオカシナ状態になったのかわからないのです。この心のすれ違いがあってこそのホームドラマですね。フランキーが住んでいるこの町ペッパーブロッサムは、町中親戚みたいなアットホームなところです。おせっかいな人が多くて、噂話が広がりやすい。そんな人情味のある町で巻き起こるひと騒動。それは懐かしいユーモア小説感覚でもあるのですが、そこに、はるか遠くワシントンから、メールで参加する人がいる、あたりが新鮮です。手紙が重要な小道具になっている作品は、それこそ沢山ありましたが、メールの持つスピード感によって、物語は大いに飛躍するようになりましたね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。