ストローガール

Straw girl.

出 版 社: 求龍堂

著     者: ジャッキー・ケイ

翻 訳 者: 代田亜香子

発 行 年: 2005年09月


ストローガール  紹介と感想 >
ロールシャッハテストのような表紙を見てください。コーヒーにミルクを入れたところの拡大図?。全く意味不明に思われた黒と白のまだら模様の図柄が、物語を読み終えた後、再び眺めると、あっと驚いて、心の中にこの作品のドラマが駆け巡りはじめます。そして、少し胸が痛くなる、あの、別れの季節の感傷の風が吹いて、ふいに切なくなってしまうのです。誰の目にも見えなかったストローガール。ある日、突然、メイビーの目の前に現れた麦ワラで出来た少女。最愛の父さんを亡くし、生きる気力を失ってしまった母さんの面倒と、立ち退きを要求されている父さんの思い出のいっぱい詰まった大切な農場の世話をしながら、学校でイジメられても負けずに、毎日を乗り切ろうとしている健気な少女メイビーの前に、その少女が現れたのは、本当に不思議な出来事でした。でも、メイビーは願っていたのです。自分を本当にわかってくれる友だちが欲しいと。メイビーの牧場は『ウィッシングウエル・ファーム(願かけ井戸農場)』と呼ばれていました。農場にある古い井戸には、子どもたちが、1ペニーコインを井戸の底に投げ込んで、願いごとをしにくるのです。この数週間前、まだ、本当に子どもだったメイビーは、今のような事態が自分に訪れるとは思ってもいませんでした。働き者の父さんは、アフリカのイボ族出身であることを誇りにしている、いつもメイビーに歌を歌ったり、踊りを教えてくれる優しい人でした。白人の母さんも、この父さんを愛して、明るく家庭を切り盛りしていました。メイビーは、本当はモリーという名前なのですが、なにを聞かれても、はい、とも、いいえ、とも、はっきり言えず「たぶん(メイビー)」と答えるような、恥ずかしがり屋の、ほんの十一歳の子どもだったのです。しかし、ふいに襲った交通事故は、メイビーから最愛の父さんを奪い、そして、メイビーの子どもの時間も奪ってしまったのです。茫然自失して何もやる気を見せなくなってしまった母さんは頼りにならず、父さんから習った方法で農場や牛の世話をしながら、日々を送るメイビー。しかし、メイビー母子は、農場の土地を売ってスーパーを立てようと計画する悪徳事業者兄弟に、立ち退きを迫られ、嫌がらせも受けていたのです。自分がしっかりしなくちゃ、と思うメイビーは、もう大人として過ごさなければならなくなっていました。

そんなとき出会ったストローガール。「農場、救う、敵、戦う」、片言の言葉でメイビーに語りかける天真爛漫な少女。無邪気にメイビーと遊んだかと思えば、ふいに、寂しい気持ちになって、木を抱きしめる。木の賢さとやさしさを感じて、いらいらした心を慰める。まるで自然の一部が、そのまま生き物になってしまったようなストローガール。こんな特別で、意外で、独創的な友だちはいない。愛に満ちたストローガールがいてくれることで、メイビーの心は、だんだんと強くなっていきます。黒人と白人のハーフであることから、学校でもいじめられていたメイビー。父親がアフリカのイボ族出身ということも、ちょっと恥ずかしく思っていたメイビー。でも、メイビーの気持ちは、少しずつ変わってきます。父さん似のちょっと周りの人と違う外見も、黒人文化の伝統にも、だんだんと誇りと興味を持ちはじめたメイビー。ストローガールは精霊のように森の木々を飛び回り、メイビーに微笑みを作ってくれます。一方、農場からの立ち退きを迫る、悪徳業者は、卑劣にも、メイビーが大切にしている牛たちを誘拐して屠り、メイビー母子に脅しをかけようとしていました。ストローガールと一緒に、この陰謀を事前に察知したメイビーは、真っ向から戦いを挑むことになります。ストローガールには特別な力がありました。けっして、大きな力ではないけれど、二人で力を合わせて立ち向かうのです。やがて、メイビーには、少しづつ、協力者たちが現れます。小さな力を集めて、大きな力に変えて、心に勇気を奮いたたせて、勇敢にメイビーは戦っていきました。

勝利の代償に失ったものもあります。メイビーも、まるで十歳も歳をとってしまったような、そんな痛みを感じながら、この戦いを越えていきました。あの、優柔不断で、「たぶん(メイビー)」としか言えなかった少女は、自分の力で、大切な農場、父さんとの思い出の場所のために、戦う決意をしました。そして、自分に流れる血に誇りを持ち、人間としての大きな成長を遂げたのです。そんなメイビーを見守っていたストローガール。季節の移ろいの中で、自然に還っていくストローガール。ストローガールは思います。自分の特別な力を、メイビーに与えられたらいいのに。「わたしのちからを、のこしていく」、小さな宝石箱に入れて、カードを添えて、メイビーにプレゼントのように渡すことができたらいいのに・・・。メイビーの心に残されたものは、いったいなんだったのでしょう。ファンタジーでもありながら、実にリアルな困難を、一人の少女の成長が乗り越えていく、そんな姿を見せてくれる、魅力的な物語です。読み終えて、そして、もう一度、最後に、表紙を眺めてください。暖かい慈しみが、きっと、胸に灯り続けるはずです。

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