出 版 社: 理論社 著 者: アン・ブラッシェアーズ 翻 訳 者: 大嶌双恵 発 行 年: 2009年05月 |
< フレンズ・ツリー 紹介と感想 >
友情の始まりではなく、友情の終わりから始まる物語、ということで、この作品、なかなか手ごわい感じがします。以前は仲が良かった同士が喧嘩をしたわけでもないのに、自然と疎遠になってしまう。もともとタイプが違っていたけれど、ついにその「方向性の違い」が明らかになってしまった。仲が悪くなったわけではないが、もうそれほど親しくするわけではない関係。これは、なんとなく身に覚えもあるところです。子ども時代の、わりと濃密な友だち関係を維持し続けるのは難しい。関係をシフトチェンジする時期の微妙な感覚については、感慨をもって思い出されるものです。高校入学を前にした三人の少女は、以前は親友同士だったけれど、今は距離ができてしまいました。タイプの違う三人は、それぞれの世界で生きていくのです。でも、一人では乗り越えることが難しい障壁に、孤独のうちに挑んでいく姿にはやや痛々しいものがあります。そんな時、支えになるものとは何でしょう。ティーンの葛藤や格闘がビビッドに描き出された作品です。
ジョー、ポリー、アーマの三人。以前はいつでも一緒にいる親友でした。しかし中学を卒業する今となると、成績優秀で真面目なアーマや、図書館で授業には関係ない本を読んでいるのが好きな変わり者のポリーは、活発なジョーから見ると地味で子どもっぽく、最近では一緒に遊ばなくなっています。高校入学を控えたこの夏休みも、ポリーは遊び仲間と海辺のレストランでアルバイトをするし、アーマは課外講習に参加する予定だし、ポリーはモデルになるためのレッスン教室に通おうとしています。三人三様。だけれど、この夏、三人はそれぞれに思ってもみなかったことに遭遇して、戸惑います。アーマはインドア派なのに苦手なアウトドアキャンプに参加させられることになったり、ポリーはモデル教室で自分の外見のコンプレックスに悩まされたり、ジョーは、両親の不仲に悩まされ、また男の子絡みのトラブルで、バイト先で孤立無縁。彼女たちは、くじけそうになりながらも、時に以前の親友たちのことを思い出しながら、目の前にあるピンチを乗り越えていきます。そして自分にとって大切なことを学んで成長していきます。物語の終わりに三人が感じ取ったものは何だったのでしょうか。
YAのヒットシリーズ『トラベリング・パンツ』と同じ作者による姉妹編です。例の四人は直接、この物語に絡んできませんが、その友情と、あのジーンズのことは、今も同じ町に住む少女たちには伝説として語り継がれています。あの四人の物語では、それぞれが困難に立ち向かいながらも、他の三人に心を支えてもらっていました。四人の後輩にあたる、この物語の主人公の三人には何があるのか。やや厳しい状況で一人きりで闘う三人だからこそ、彼女たちが自分でハードルを乗り越え、大切なものを見つけだす姿には、より心を寄せるべきところがあるかも知れません。家族の問題やコンプレックスなど等身大の悩みを抱えた普通の女の子たち。しかも例の四人のような絶対的な友情は休止状態に入っている。主人公たちの境遇や体験や内面が、くるくると順番に語られていく形式は『トラベリング・パンツ』と一緒でスピード感があり、まあ、余白は少ないのだけれど、読者を飽きさせません。なんというか、このスタイル、確立されすぎていますね。ピンチは沢山あっても、まあ、ちゃんとハッピーエンドに帰結してくれるだろうということで、心配も想定範囲内。すれ違いがちではあるけれど、親たちが愛情深く娘たちを見守っているのも安心させられます。ということで、実に安定した作品なのです。