トラベリング・パンツ

The sisterhood of the traveling pants.

出 版 社: 理論社 

著     者: アン・ブラッシェアーズ

翻 訳 者: 大嶌双恵

発 行 年: 2002年04月

トラベリング・パンツ  紹介と感想>

人気シリーズ、『トラベリング・パンツ』。完結した四巻をまとめてレビューします、と言ったものの、主人公の四人の女の子たちの十六歳から十九歳の四年間は、簡単に語りつくせるはずはなく、是非、一冊一冊、一喜一憂しながら、楽しんで欲しい物語なのです。本国、全米でも大人気だったこの作品は正続合わせて二回も映画化されています(『旅するジーンズと16歳の夏』と『旅するジーンズと19歳の旅立ち』)。このシリーズでは、ずっと一緒に育ってきた幼なじみの四人が、それぞれが別の場所で過ごす夏休みの出来事が描かれてきました。最初の二巻は高校生の夏休み。三巻目の『ラストサマー』では九月の新学期からそれぞれ違う大学への進学を控えて、離れ離れになってしまう最後の夏休みが描かれ、そして、最終巻の『ジーンズフォーエバー』では、すでに別の場所で大学生活を送っている四人の姿が描かれています。お互いの母親同士が、妊婦の時に通っていたエアロビクス教室で一緒だった、生まれる前から一緒の四人の女の子たちは、母親たちが疎遠になっても、友情をはぐくみ、本当の姉妹以上の関係で結ばれて育ちました。レーナ、ブリジッド、カルメン、ディビー、それぞれ個性も趣味もまったく違う四人組。親たちのルーツや、見た目にも違いがあります。だけれど、お互いを思いやり、喜びや、悲しみをシェアしてきた本当の仲間たちなのです。「トラベリングパンツ」は、四人がはじめて別々の場所で過ごさなければならなかった最初の夏休みの前に、古着屋で見つけた一本のジーンズの名前です(彼女たちは「パンツ」と呼んでいます)。不思議なことに、これは体型が違う四人の誰が履いても、ぴったりとフィットしてスタイル抜群の魅力的な姿に見せてくれる魔法のジーンズだったのです。このジーンズを履いた時には、ちょっとだけ勇気をもらえて、できなかったことにチャレンジできる。四人は、このジーンズを「友情の証」として、着用ルールを決めました。それぞれの思いを託して、願いがかなうよう、順番にこのジーンズを、離れた場所にいる友に渡していく夏だけの儀式。一年につき一冊の物語の中で、四人には様々なドラマがありました。その思い出はジーンズに記されています。四人それぞれが、それこそティーンズ小説の主人公になりそうな(事実、主人公なのですが)事件に遭遇して、それがぐるぐると順番に語られて、一作にまとめあげられているのだから、もう、目まぐるしいこと。なにせ、通常の四倍のボリュームなのです。スピード感があって面白いのですが、ちょっと慌しく、頭の切り替えが必要です。とはいえ、大人へと一歩ずつ近づいていく彼女たちの成長する姿が、いじらしくもいとおしく、何よりも、どんなことがあっても絶対に崩れない彼女たちの友情が羨ましく、好感が持てるシリーズです。

僕が一番好きなのは、ディビー。最初は、四人の中で一番、女の子らしくない存在でした。ショートカットで鼻ピアスなんかつけていたりする。あんまり行動的じゃないし、ちょっと孤独癖があって偏屈、自己思弁の隘路に陥りがちなクールな子でした。小さな妹や弟たちの面倒に追われて不満も多い。ピーナッツで言えば、ペパーミント・パティ・タイプ(違うかなあ)。最初の『トラベリング・パンツ』の夏、ディビーは他の三人と違い、一人、なんのイベントもないまま、地元に残ってアルバイトに四苦八苦していました。そんな時、出会ったのが、小生意気な少女ベイリーと、パソコンおたくでTVゲームが得意な少年、ブライアンです。ディビーは憎まれ口ばかりを叩くベイリーに手を焼きながらも、趣味の映像作品の製作を通じて、次第に心を通わせていきます。しかし、ベイリーは白血病で、幼くして、その命を召されることになるのです。身近な人間を失う痛みに耐える試練を課された最初の夏。その翌年の夏(『セカンドサマー』)、ディビーは映像製作のスクーリングに参加しますが、表面だけ格好つけた人間たちの間に入ってはじめて、みっともない友人であるブライアンが、どんなに輝いた心を持っているか、自分にとっていかに大切な本当の友人であるかを知ります。で、三年目の夏(『ラストサマー』)、九月からニューヨークの大学の映像学科に進学することになったディビーですが、ブライアンとの関係に、ちょっとした異変が起きるのです。この一年の間に、みっともないオタク少年だったブライアンは、急に身長が伸び、身だしなみに気をつけるようになり、眼鏡も壊れたついでに外してみたら、ボサボサだった頭も、逆にお洒落に見えたりして、意外にも校内の人気急上昇の好男子になってしまったのです。ディビーにとっては、ベイリーとの思い出を共有できる友だちであり、内面は相変わらず、もとのブライアンなのに、卒業パーティーのパートナーとして正式にお誘いを受けてしまい大混乱。ブライアンが自分に寄せてくる好意が、変化してしまったことに戸惑い、もとのような気さくな友人関係でいられなくなりそうな予感に動揺します。四人の中で、一番オクテで、男女関係にも感心がなかった不器用なディビー。揺れる気持ちが、ちょっとしたトラブルを引き起こし、またも落ち込む夏となりますが、そんな彼女のいじらしい姿を、思わず応援したくなる、そんな夏。そして、最後の夏は、恋人同士となった二人の関係に暗雲が漂い、別れを迎えることになるという急展開。自分からブライアンに別れを切り出したディビーは、それでも自分の本当の気持ちがわからずに思い悩みます。そんな時も彼女を支えてくれたのは、やはり彼女のことを彼女よりもわかっている親友たちです。そして、まあ、結果はだいたい想像通りです。

無論、ディビー以外にも、レーナ、ブリジッド、カルメンの物語があって、まあ、盛りだくさんなのですが、毎度のパターンだなあ、と思いながらも、他人の心の痛みを知って、それに心を添わせていく、少女たちの素直な気持ちが真っ直ぐで良いな、と思わせてくれます。恋の行方にハラハラしたり、自分の非力さに情けなくなったり、大人の世界の壁にぶつかったり、親の愛情を希求して、拗ねて寂しくなってしまったり、自分の心をはかりかねたり、年齢相応の等身大の悩みに揺れる心が活き活きと描かれています。そしてジーンズの力という、暗示をかけて、困難を乗り切っていく彼女たちの前向きさに、微笑まずにはいられないのです。なによりも、お互いに無償の友情を捧げる四人の幸福な関係。どんな困難があっても、そこに帰ってくれば乗り越えていける。最終巻では、ジーンズが自分たちに果たした役割について、四人が総括をすることになります。是非、また最初から四人の夏休みを振り返って、この永遠に続いていく友情の幸福感に満たされることも楽しいのではないのかと。そんな楽園がここにあります。ずっと、いつまでも。