翼のある猫

(上下巻)
De gevleugelde kat.

出 版 社: 河出書房新社 

著     者: イサベル・ホーフィング

翻 訳 者: 野坂悦子 うえだはるみ

発 行 年: 2010年12月


翼のある猫  紹介と感想 >
ヤッシェはアムステルダムに住む十二歳の少年。両親は離婚し、母親と、口うるさい母親の恋人と、その娘と一緒に暮らしています。家も学校もそんなに上手く行っている方ではない、ごくありきたりな少年。特徴といえば、ちょっとしたものを、ささやかに盗んでくる困った特技があることぐらい。そんな彼のところに、ある夜、一本の電話がかかってきます。それはヒップハルトという商社からスカウトしたいという申し出でした。でも、ヤッシェを見込んで誘ってきたのは何故なのか。その商社でのヤッシェの仕事はセールス。しかも「ウマイヤ」という特別な世界に入っていって物を売ってくるという業務内容です。「ウマイヤ」は人間の無意識が共有された「夢」の世界であり、現在と過去が混在した場所。ヒップハルト社は営利団体であり、セールスマンたちが、ある時代で集めた商品を、別の時代の人間に売りさばき利潤をあげていました。ウマイヤはあくまでも夢の世界であり、現実の過去の世界ではありません。どうやらヒップハルト社はライバルのカッツ社との競争に勝つため、夢の世界から現実の過去の時間に入り込む境界線を模索しているようなのです。さて、新米セールスマンになったヤッシェは、友人のボルスや、他の子どもたちと一緒にウマイヤに派遣され商売を始めます。しかし、夢の世界ウマイヤは危険な場所。身体の一部を損なったり、この世界から帰ってこれなくなった子どもいます。恐ろしさと好奇心と報酬の魅力に揺れる気持ち。上役に率いられヤッシュと友人のボルス、そして年長の少女テレサが、ウマイヤに飛び込んだ時、ある事件が起きます。オランダ発の非常に奇妙な世界観を持った物語。かなりクセのある作品です。

ヒップハルト社は11世紀に設立された商社です。現在も創業者の一族が経営を掌握しています。ウマイヤにヤッシェたちを連れて行った上役も、その中の一人であるヘッセル・ヒップハルト。でも、まさか彼女にウマイヤに置き去りにされるなんて。夢の世界から戻ることができなくなった三人の子どもたち。しかもウマイヤの時間はどんどんと過去へと遡り続けます。ヤッシェはここウマイヤで産まれないまま死んでしまった双子の妹、天真爛漫で残酷なイェリコと出会います。彼女も加えて四人の旅は続きます。ヤッシェと友人のボルス、そしてテレサにはウマイヤの中で発揮できる特殊な能力があり、それを駆使してこの世界を生き抜いていきます。やがて、四人はヒップハルトの祖先であるテンベの民と、この世界の確執のはじまりを旅の途中で知り、原初の因縁をひも解くことに挑むことになります・・・。とまあ、簡単に書くと、この物語はそんなふうなのですが、実際はノリがなんとも奇妙で、なかなか読書のドライブが難しかったという印象です。人の感情表出も違和感があり、妙な言い回しに翻弄され続けます。気持ちの悪い浮遊感。何故、それが重要なのかわからないまま、繰り返される言葉を読み続ける。なんだか本当に、夢の中の世界を漂っているような感じなのです。独自の世界観を持ったファンタジーという意味では面白い作品です。

先週、僕は体調を崩して、ずっと高熱特有の変な夢ばかりを見続けていました。起きた時の夢疲れが甚だしく、たまらなかったです。嫌な夢から抜け出すにはどうしたらいいのか。夢の途中で、これは夢だと気づいても、それ自体も夢だったりするわけで、自分でコントロールすることは難しい。そんな体験から、この物語の、夢からどうしても抜け出すことができない恐ろしさをビビットに感じられるところがありました。誰もが、「夢」という不思議な世界を体験しているけれど、それを言葉にすることは難しいものですね。夢の中で面白いアイデアに出会うことがあるので、目が覚めたらすぐに置いてあるスマホのメモ帳に書きとめています。で、これを後から読んでも全然意味がわからないし、変なメモばかり残されているんです。夢の中では凄く面白かったことや言葉が、起きて、思いだして見ると面白くもなんともないことも良くあります。なんだか、普通の世界に連れてくると黒くなってしまう「青い鳥」みたいだななんて思っています。そんなわけで、やはり、夢のような作品にはどこか惹かれてしまうわけです。まれに悪夢のような作品もあって、ここ数年のYAだと『タイドランド』なども思い出されます。