きみが、この本、読んだなら

ざわめく教室 編

出 版 社: さ・え・ら書房

著     者: 戸森しるこ おおぎやなぎちか

       赤羽じゅんこ 池田ゆみる

発 行 年: 2020年02月

きみが、この本、読んだなら 紹介と感想>

小学生が本をすすめたり、すすめられたりすることをテーマにしたアンソロジー『きみが、この本、読んだなら』の「ざわめく教室 編」です。六年生を主人公にした「とまどう放課後 編」に比べると、五年生の子たちはやや幼さがあり、そこにまた別のハーモニーが生まれています。さて、人に本をすすめるなんて、押しつけがましくて余計なお世話じゃないのかと思うことがあります。なので、この『クロエ・ドール』の主人公の広地(りく)のように、「この本を読んでみたまえ」なんて上からな言葉を書いたメモつきで、女の子の机の上に本を置いておくなんて、ユーモラスだけれど、かなりリスキーな行為だと思ってしまうのです。とはいえ、この女の子、いつも人形を抱えている寡黙な貝原さん、に惹かれてしまった広地のアプローチがどう転ぶのかは気になるし、その本が『りかさん』となれば、その世界観もプラスされて、きたるべき展開にワクワクさせられてしまうのです。広地もお母さんに本をすすめてもらったわけですが、小学生男子ミーツ90年代梨木果歩ワールドというだけでも興味深く、かといって70年代安房直子ワールドのように、幻想にとりこまれて帰ってこられないなんてことがない匙加減も良いところ。このアンソロジー唯一のファンタジー系であることも特色です。続いての『パワーストーン』は、以前一緒に暮らしていたママの妹である叔母の麻美が仕事を辞めて、小学生の瞳の家に戻ってくるところから始まる物語です。以前は「大きな姉」のように慕っていた麻美と、やや距離が開いてしまい、以前のように打ち解けられない瞳には、学校でいじめられていることなど胸につかえているものがあります。瞳の気持ちを暗黙のうちに察する麻美が貸してくれたのは『いい感じの石ころを拾いに』。そこで、瞳は麻美からすすめられた本の写真は見るけれど、ちゃんと読むわけじゃない、というのもいい感じなわけです。そんな本へのスタンスもこの本は見せてくれます。ストレートな言葉で、心の核心に触れることはなくても、大切なことを伝えられることはある。そんな塩梅の妙があります。理屈が詰まっていなくても、通じることはあって、人間は感じとれることもあります。瞳の決意と行動が清々しい作品です。

三話目、『『ダレカ』をさがす冒険』では『二分間の冒険』が登場します。読むのは、普段、本なんか縁のない小学生男子となると、どんな出会いになるのか、それだけでもワクワクしますよね。図書委員になった主人公の息吹は、おすすめの本を書いて提出するために本を探していたのですが、思いつかず、おばあちゃんに頼ろうとします。そこで渡されたのが、お母さんの愛読書であった『二分間の冒険』なのです。そこにはお母さんが子ども時代に書いたおばあちゃんへの手紙が挟まれていました。こうなると、お母さんが子ども時代に抱いていた気持ちも知りたくなってくるわけです。物語を読み進めるうちに息吹もすっかりはまっていって、図書委員の子たちと、同じ本を好きなもの同士の連帯感も得ることになります。さて、お母さんは一体、この本を読んで何を思って、おばあちゃんにどんな手紙を書いたのか。親子で同じ本を好きな同志になるような、そんな感覚もまた良でした。さて、本書の最後は『図書館と昆虫の森』。この物語、主人公の満里奈の目から、クラスの変わり者、涼太という少年を映し出すのですが、彼がなかなか魅力的なヤツなのです。夏休みの自由研究で、自分で図書館を作るというアイデアは、変人と呼ばれている涼太らしい試みで、他の子はほっとけと言うけれど、本が好きでどこか大人びたところのある涼太のことを満里奈はちょっと気になっています。この物語、この後の展開が非常に深遠で、満里奈が森の自然の中で感じたことや、祖母との最期の時間など、小学生の器には大きなテーマが出現します。その物語の広がりが、涼太の作った図書館ですすめられる『レイチェル・カーソン』の伝記によって収斂されていくことに驚かされます。「お盆」と「環境問題」が次元を越えて、輪廻のサークルとして繋がっていく。それが全然、難しいことではなく、満里奈の腑に落ちるあたり、すごいところなのです。涼太がどうにもカッコ良くて、ああ、自分もこんな小学生で在りたかったなどと思いました。

こちらの「ざわめく教室 編」の方が、異色作が多いと思います。良い意味でとりとめのない感じというか、説明が難しいのです。「とまどう放課後 編」の方が、おすすめしやすいと思ったのは、僕がわりと理や知に感銘を受けやすいところがあるからかなと。そうした好みも出てしまうので、本をすすめるという行為はまた恥ずかしかったりもします。一方で、条理をこえたところにある結びつきや、不思議にもまた魅力があるものです。知識を得るために本を読むのではなく、自分と響きあう何かを見つけるための読書もあって、そのきっかけを誰かが作ってくれる、なんてドラマがあること自体、どこかいいなと思うのです。自分の心の枠を超えたものと出会うには、人の言葉に耳を傾ける必要があるなとも思います。そうえいば、会社員としての覚悟を決めかねていた新入社員当時、年配の先輩に「松下幸之助語録」をいただいた記憶があります。おそらくそれは自分が志向する働き方とは違う方向性のもので、今にして思えば、自分の中の色々な迷いを見抜かれていたのかなどとも思います。結局、それで何かに開眼することもなかったのですが、慮ってもらった気持ちが嬉しかったことは覚えています。誰かとの一対一の関係で、本をすすめたり、すすめられたりすることは、本の存在自体を越えて、人と人を、あるいは人と世界を結びつけるものですね。ということで、良い本がございましたら、こちらまでおすすめください。