スター★ガール

Stargirl.

出 版 社: 理論社 

著     者: ジェリー・スピネッリ

翻 訳 者: 千葉茂樹

発 行 年: 2001年04月


スター★ガール  紹介と感想 >
誰か大切な人がいたなら、その人を大切にしなければなりません。などと、至極、当たり前のことを言うのだけれど、こうした言葉を後悔とともに噛みしめなくてはならない時がくるのは辛いもので、堅く言って「慙愧の念」を感じつつ思い出す人がいるのは、かなり切ない。心ならずも傷つけてしまったまま二度と会えなくなった人や、とりかえしのつかない別れ方をした人のことを語るのは耐えがたいこと。いや、もはや語るまい。静かに記憶から消していくのさ。気がつけば「いい大人」で、もう大概の感傷はなくしてまった。でも、どこかでもう一度、運命の歯車が重なることがあれば・・・。こうした胸の痛みに覚えのある方には、是非、読んで欲しい一冊です。

物語は「スター☆ガール」と名乗る女の子と「ぼく」との束の間の交流を描いたもの。ハイスクールでのスターガールの行動は、ともかく奇妙でキテレツ。ウクレレを抱えて、いつも歌っている。化粧気のない顔と奇抜な服装。ともかく「みんな」と違っている。机は勝手に飾りつけるは、誰彼かまわず、誕生日にはバースディソングをプレゼントするは。学校一フレンドリーな存在でありながら、誰ひとりともだちのできない彼女。何よりも変わっていたのは、自分のことを省みずに、他の人たちを喜ばせようとすること。それは、彼女から突然贈られるカードであったり、小さなプレゼントであったり。誰かの小さな幸福を、ストーカーまがいの調査力で見つけ出しては祝福し、苦しみや悲しみもまた、シェアして慰めようとする。やがて彼女はその博愛主義のために、学校中を敵に回し、冷やかな「無視」によって、その存在を消されていきます。彼女が好きになってくれた「ぼく」は、どうしても、最後まで彼女の味方でいることができなかった・・・。いとおしくも、切ない後悔の物語。そして、今でも「ぼく」は、彼女のことを忘れられない。

非常に評判が良く、各種媒体でもとりあげられていた『スター☆ガール』です。YAのイメージを限定化したきらいはあるものの、その後の翻訳YAブームの中で、担った役割は非常に大きかったと記憶しています。帯によると全米書店員が選んだ「2000年いちばん好きだった小説」だそうです。いいぞ、全米書店員。うっとおしくも愛らしいスターガールの存在感。その魅力的なことと言ったら。とはいえ、どうにも手に負えない変わり者。近くにいたら、目が合わないようにするかも知れないし、まあ仲間だとは思われたくないかも知れない。本当は、彼女のピュアなスタイルに憧れながらも、遠巻きに見守る同級生の一人。あの時、彼女の同志になることができたなら・・・とまれ、回想の中で一抹の後悔をもって語られてこその少年物語よ。児童文学、ヤングアダルトというジャンルにこだわらず、むしろ「いい大人」に読んで欲しい作品です。この本を読んだ方と、伝説のバニー・ホップについて、シルバー・ランチ・トラックについて、ヤマアラシのネクタイについて、または正しい背中の掻き方について懐かしい思い出話をしながら、回想の中で燦然と輝くスターガールを惜しみたい、と思うのです。そして、今、目の前にいる大切な人を大切にしよう、などと思っていただけたなら幸いです。

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