ぼくたち負け組クラブ

THE LOSERS CLUB

出 版 社: 講談社

著     者: アンドリュー・クレメンツ

翻 訳 者: 田中奈津子

発 行 年: 2017年11月


ぼくたち負け組クラブ  紹介と感想 >
放課後プログラム。それは、生徒が登録すると六時間目の授業が終わった後の三時間、学校に残っていることができる制度です。アレックのように両親が働いていて家にいない子は、この制度を活用することができるのですが、宿題をやるか、どこかのクラブに所属することが必須でした。運動系も文化部系もあるものの、アレックとしては、この時間にやりたいことがありました。それは、読書です。かといって、普通の読書クラブのように、課題本の感想を話し合うようなことはしたくない。ただ、一人で、黙々と本を読んでいたいのがアレックなのです。本の虫。そう言われるのをアレックは嫌がりますが、まあ度を超えた読書好きで、授業中でも本を読んでしまい、罰を与えられるほどなのです。二人以上いれば読書クラブとして登録できる。活動は、ただ自分の好きな本を読むだけ。だから、あまり他の人に入ってきて欲しくない。そんな気持ちでアレックが、自分で作ったクラブにつけた名前が『負け組クラブ』。これなら人が入りたがらない、と思いきや、次第にワケありの子たちが集まってきてしまいます。物語は、そんな『負け組クラブ』の興亡を描いていきます。いや、亡びはしないけれど、変化はするかな。そんな名前をつけたアレック自身もまた。

本が好き、というのは悪くはない趣味だ思います。世の中に関する知見も広がるし、人間への洞察も深くなるでしょう。とはいえ、ただ好きなことをやっているだけで、人に迷惑をかけないものの、誰かに何かを与えることもなく、憧れられるなんてこともないものです。閉じた世界にこもっているだけ。なんて後ろめたさが、当人もどこかにありますね。特に、そんなことを意識するのは、客観的に自分のことを考えてしまった時でしょう。まあ、読書家よりも、スポーツマンの方がモテますよね、一般的に。で、自分が好きになった女の子が一般的じゃないことに気づかないこともありがちで、そこから迷走が始まります。読書好きのアレックに生まれた、そんな心の隙も見どころです。まったく、本だけ読んで満足していれば良いものを、と思うものの、思春期には色々あるのです。つい面白い本を人にすすめたくなってしまったり、どんな反応を得られのか気になってしまうこともある。読書好きだって、実は、共感の可能性や、人との繋がりを希求しているのかも知れません。アレックは自分をからかう同級生のスポーツマン、ケントとあらそいます。そこには一人の女の子をめぐってのライバル意識もありました。やがて、ケントとアレックはスポーツを通じて互いを認め合い、本を通じて心を通わせることになる、というのは物語の定石ですが、それもまた、本好きにとってのファンタジーだなと思わされるところです。ただ、黙々と本を読んでいるだけでは物語は展開しないというのは皮肉だけれど。

アレックや他の子どもたちが読んでいる本は実在の作品ばかりで、沢山のタイトルが物語の中に登場します。これは巻末にリストになっているので、読書ガイドとしても楽しめます。どんな本を読んでいるかで、人をはかってしまうのは読書好きのいけないところですが、まあ、目の前に現れた女の子が、あの『五次元世界のぼうけん』を読んでいたら、気にかかるものだし、だったら『きみに出会うとき』は必読だ、などと思ってしまうのがアレックスなわけです。沢山の本の話題が出てきますが、中でも『ひとりぼっちの不時着』は、この物語の中でもキーになっている作品です。子どもがサバイバルする他の物語への言及もありますが、やはり、この作品は色々な意味でハードだし、小学生男子にはたまらないだろうと思います。実は続編が二作もあって、日本では未訳で刊行されていないということを、この本で知りました。僕も以前に読んでいて、かなりインパクトを受けた作品だったのですが、紹介文を書いていませんでした(この時点では。あとで書きました)。あの作品の魅力をどれだけ伝えられるか、挑戦したくなりました。なんて、自分もまた、かれらの読書の輪に入りたくなったのです。ただ隣同士で黙々と本を読むだけ、とはいえ。