サリーの帰る家

The hiring fair.

出 版 社: さ・え・ら書房

著     者: エリザベス・オハラ

翻 訳 者: もりうちすみこ

発 行 年: 2010年04月


サリーの帰る家  紹介と感想 >
19世紀末のアイルランド。十三歳のサリーの家は借地農家で、豊かな生活ではないものの、両親と妹たちと楽しく過ごしていました。夢見がちで、家の仕事をするよりは本を読んでいる方が好きなサリー。三つ歳下の妹のケイティの方が大人びていてしっかりとしているぐらいだと言われていました。サリーがお母さんたちとダンスパーティーに出かけた夜、突然に、お父さんが亡くなってしまうという事件がおきます。働き手を失った家族は、いきなり困窮します。学校で友だちと笑いあったり、ちょっと気になる男の子のことを考えているだけで良かった毎日が急転。借地の代金を払うために、サリーとケイティの姉妹は、学校をやめて、豊かな農家に住み込みで下働きに出されることになるのです。まるで『アンクルトムの小屋』の奴隷みたい、とサリーが思うように、「雇われ人の市」で雇用主に値踏みされて知らない村に連れていかれるなんて、心がつぶれてしまような体験です。同じ村とはいえ、それぞれ違う家に雇われて下働きをすることになった二人は、めったに会うこともできないまま、寂しく厳しい暮らしを続けていきます。気難しい奥様に仕え、小さな子どもたちの面倒をみながら、まったく休む暇もなく働くサリー。これから年季が明けるまでの半年間、サリーには辛抱の日々が続くのです・・・。

夢想癖が強くて読書好き。サリーみたいなタイプの子が、こうした状況に放り込まれて、希望を失わず、強い気持ちをもって、辛抱できるのかどうか。読者もまた、心配しながら見守らないとなりません。それでも少しずつサリーは仕事に慣れていきます。町で本を借りることも覚え、読書の趣味も取り戻し、自分の生活をここで築いていこうとします。しかし、サリーが働くスチュワート家の奥さまが、高齢出産の後、体調を崩し発病し、手術を受けなければならなくなります。旦那さんもつきそい、町に行ってしまったため、数週間、小さな子どもたちをサリーは一人で面倒みなければならなくなります。こうした状況の中で、サリーは少しずつ、考え深くなり、人を心配する気持ちが目覚めていきます。家では妹に面倒を見てもらっていたようなサリーが、ケイティのことに心をくだくようになり、主人夫婦が不在の家を守っていかなくてはならないとの自覚が生まれます。自分が帰る家は、今は、この場所なのだ。そんなふうに力強く成長していくのです。ところがクリスマスを前にして、スチュワート家の近くを不審者がうろついている気配をサリーは察知しました。サリーはどうやって小さな子どもたちを守っていったら良いのでしょうか・・・。

クラシックな少女小説や家庭小説(オルコット、ポーター、ネズビットとか)寄りの児童文学、という感じでしょうか。19世紀~20世紀前葉を舞台にした、孤児や家庭が困窮した少女モノというのは、最近でもわりと良く見かけます(これ、国内作品だと明治大正期の少女モノになるんでしょうけれど、あまりないんですよね。まだ少年の徒弟モノならまだあるかな)。苦難を越えて成長していく姿には、時代を越えた普遍的な魅力があるのかも知れません。19世紀末のアイルランド情勢も、物語の周囲では聞こえてきます。アイルランドの自治が進めば、借地人が農地を購入することもできるようになり、サリー一家の暮らしも楽になっていくはずでした。一方で、サリーが住み込んで働くようになったスチュワート家は、イギリスからの入植者の子孫のプロテスタントで、独立運動を推進する政治家には反感を持っています。そんな大人たちの会話もサリーの横では交わされていきます。現実のディテールが垣間見える時代設定も面白いところです。こうしたところに、児童文学の時代小説としての進化と深化もあるのですね。”

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