ドレスを着た男子

The boy in the dress.

出 版 社: 福音館書店

著      者: デイヴィッド・ウォリアムズ

翻 訳 者: 鹿田昌美

発 行 年: 2012年05月


<  ドレスを着た男子   紹介と感想>
母さんが出ていってから、トラック運転集の父さんは、口数も少なくなって、口をひらけばどなってばかり。母さんの話はしない。母さんのことを思い出して泣かない。もうハグはしない。これがこの家の新しいルール。デニスはたった一枚だけ隠し持った母さんの写真をながめては悲しみくれていました。花柄の黄色いワンピースを着た母さんの写真。それはまだ、幼かったデニスと兄のジョンと母さんとの幸せな時間をつなぎとめたものです。変わってしまった家の中で、デニスの心を支えていたのは、学校一得意なサッカーと、雑貨店で見かけてつい買ってしまった『ヴォーグ』という雑誌。そう、あの有名なファッション誌です。めくってもめくってもファッションの広告や写真ばかりが続く宝箱のような雑誌。「影響力のある着こなし(パワードレス)」なんて言い方や、洋服のことを「作品」と表現するその感覚に、デニスの感性はすっかり魅了されてしまいました。とはいえデニスは、親しい友だちにもこの自分の趣味について打ち明けることはできません。父さんには雑誌を見つかって怒られるし、十二歳の男子がこんな趣味を持っているなんていけないことではないかと自分でも思ってしまうのです。そんなデニスが学校の中で思わぬ理解者を得ます。上級生のリサ。学校一の美女であるリサは、とびきりかっこよく制服を着こなしていて、ひそかにデニスが憧れている存在でした。偶然、一緒に居残りをさせられた教室で、リサが描いていたドレスのデザイン画を見たデニスは、そこに本物のファッションセンスを発見します。そして、リサの「服の着こなし」をほめ、「靴」をほめ、一緒に『ヴォーグ』の話をするようになります。ファッションの絆で結ばれた二人。やがて、リサによって、デニスの趣味はどんどんと開花させられていくことになるのですが、デニスが男子であるがゆえに、事態は次第に複雑なことになっていきます。ともかく楽しい作品です。

著者のデイヴィッド・ウォリアムズは役者で、児童文学作者でもある人です(俳優で児童文学者というと、ジュリー・アンドリュースが有名ですね)。ロアルド・ダールの影響を受けているとのことですが、笑いながらも涙なくしては読めないこの感じは、ウルフ・スタルクのペーソスとユーモアも持ち合わせているような気もします。語り口の上手さや、コミカルなキャラクターたちが、ちょっとした悲しみを抱いていたりするあたり、実にいいんですよ。物語は楽しい方に、どんどんと転がっていきます。デニスはリサに、彼女がデザインしたスパンコールのついたオレンジのワンピースをプレゼントされます。これが似合うとなると、リサは、今度は、デニスにウィッグをつけ、メイクアップをほどこしたくなり、できれば連れて歩いてみたくなったりします。あげくの果てには、学校にその恰好で行って、フランスからきた交換留学生だなんて言っても、誰もデニスだとは気づかなかったりするのです。ただ、調子に乗るのは禁物。世の中には、とても頭の固い男性がいるものです。学校に女装で来たことがバレて、デニスは窮地に立たされてしまいます。大好きだったサッカーの試合に出ることもできなくなってしまう。でも、ピンチのあとには、思わぬ大逆転が待っているのは、こうした楽しい物語のお約束です。最後の最後まで楽しんで読めて、そして、母さんがいなくなって殺伐としてしまった家族の心と関係性が修復されていくあたりには、じんときます。実に楽しめる一冊ですよ。

自分のファッションについて語ろうとしても、もはや「無頓着」という言葉しか出てきません。もともと朴念仁で唐変木です。服装だけでもセンス良くすれば、少しは好印象になるのかも知れませんが、あきらめて努力もしません。センスのなさを自覚しているので、人のファッションをほめることさえでないのです。以前の職場の同僚男性で、女子の服装や靴にすごく敏感に反応する人がいました。ちょうど、この物語でデニスがリサの服の着こなしや靴をほめる口ぶりと良く似ているのですが、さりげなくそうしたことができるのは、よほど洗練された男性だなと思ってしまいます。一方で、そうした男性は蔑視的な表現でさげすまれるこもあるのではないかと思います。僕のような頭の固いツマラナイ男性から冷たい目で見られて、肩身の狭い思いをして、心を痛めている繊細でハイセンスな男性が、この世の中には沢山いるのだろうと思います。美しいものを嫌いな人がいて?と問いかけられれば、そりゃあそうなんだけど、なんだかなあ、なんて、自分のセンスのなさを棚にあげて言ったりしがちなので、わりと反省しています。

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