ふたりのプリンセス

Book of a thousand days.

出 版 社: 小学館

著     者: シャノン・ヘイル

翻 訳 者: 代田亜香子

発 行 年: 2010年05月

ふたりのプリンセス  紹介と感想  >
意にそわない政略結婚を拒んだために、暗い塔の中に閉じ込められることになったサレン姫。各国に勢力を伸ばしつつあった横暴なカザール卿と縁組することで、なんとか窮地をしのごうとしていた父王は、言うことを聞かない娘を、侍女とともに塔に幽閉してしまいました。侍女のダシュティはサレン姫より一歳下の十五歳。平民の中でもとくに貧しい遊牧民のマッカーの民でした。両親が亡くなり、仕事を探していたところ、マッカーの民に伝わる治癒能力を持つ「いやしの歌」を歌えることから、ダシュティは侍女に採用されたのです。ふさぎこむ姫を励ましながら、この塔での生活をなんとか乗り切ろうとするダシュティ。とはいえ、ネズミも出る陽の当たらない塔の中、あらかじめ決められた幽閉期間である七年間を過ごせというのは、あまりにも過酷なことでした。侍女の教養として読み書きを習い覚えさせられていたダシュティは、日記にこの幽閉の日々を綴っていきます。備蓄の食糧を計算して使いながら、ダシュティはサレン姫の世話をしていきますが、幽閉開始から二年半にして、早くも食糧庫は底をつこうとしていました。もはや、ここを強硬脱出するしかない。消沈して元気を失っているサレン姫を励ましながら、ダシュティは抜け穴を作り、外の世界を目指します。やがて、脱出に成功して、久しぶりに浴びる眩しい太陽。しかし、そこには、荒れ果てた世界が広がっていたのです・・・。

ということで、冒険の第一部を簡単にまとめてみました。第二部以降は、更に意外な展開が待っていて、胸のすくようなラストに向かって、この面白い物語は一直線に駆け抜けていきます。身分は低いけれど、考え深く、特殊な能力を持っている女の子が活躍する物語。架空の王国を舞台にした、不思議な要素は入っているけれど、ファンタジーにも振り切らない物語の中で、気性のまっすぐな等身大の少女が活躍するというのは、作者シャノン・ヘイルのニューベリー賞オナー受賞作『プリンセス・アカデミー』にも通じるところです。王様、お姫様、悪い貴族が登場するような、一見、古いタイプの物語のように思えますが、今は昔の王国で活躍する賢明な少女の、ちょっと鋭い現代的な自我の萌芽も描かれています。この物語では、サレン姫がやっかいもので手に負えません。性格は悪くはないのですが、何分、王女様なので、生活力はないし、メンタルダウンは著しく、侍女のダシュティとしても手を焼いています。姫をお守りすることがダシュティの使命なので、懸命に尽くします。それでも、時折、ダシュティに湧いてくるのは「お姫様というのは、時として、政略結婚の駒になって、国民を安泰させるのが使命なのではないか」という疑念です。つまり、自分は使命を果たしているのに、姫が使命を果たさないために、こんな窮状に自分も置かれているのではないか、という気持ちがうっすらと浮かんできたりするのです。このあたりにはドッキリしました。姫と侍女の盲目的な主従関係ではないものが入り込んでくるあたり、新しい物語の要素が光っています。とはいえ、それもまたスパイスであって、メインの味つけは揺らぎのない勇気と正義のスピリットであり、やっぱり愛は勝ちます。刺激はあるけれど、安心して読んでいられるところも良いんですよね。

ふさぎこんで何もできなくなっているサレン姫に代わり、ダシュティが、お姫様のフリをしなければならないことが幾度かあります。時として、若い王様と言葉を交わすのもダシュティの仕事になる。素敵な王様に対して、にわかにダシュティに芽生える気持ちもあるのですが、自分の身分を考えて、ニセ物の姫であるダシュティは冷静になろうと考えます。お姫様と侍女。ダシュティには、主従であることを超えて、サレン姫に同じ年ごろの少女同士であることの愛憎もあるようです。ただ、二人には、ともに苦節を乗り越えてきた信頼と友情があるんですね。ダシュティはサレン姫と入れ代わりながら、その力と勇気をふりしぼって闘います。何度も陥る窮地を切り抜けた時、迎えるハッピーエンドは、なかなかニクいものになっています。無論、サレン姫にも光明はあって、皆んなで幸せに大団円を迎えられる、というのはネタバレですが、そんなことは物語の前提ですよね。お姫様と侍女が入れ替りながら活躍する、まあ、実に古典的なロマンなのですが(あるいは昔の東映時代劇的というか)、驚くような展開と、現代的な要素と、語り口の巧さに、とてもとても楽しめる作品になっています。是非、ご一読ください。

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