はみだしインディアンのホントにホントの物語

The absolutely true diary of a partーtime Indian.

出 版 社: 小学館

著     者: シャーマン・アレクシー

翻 訳 者: さくまゆみこ

発 行 年: 2010年02月


はみだしインディアンのホントにホントの物語   紹介と感想 >
クソッ、いいなあ。そんな、悪態なんだか、羨ましいんだか、良くわからない読後の第一声をもらしてしまう本です。スッゲー、いいぜ。なんて、やたらと言葉遣いは下品になってしまうんだけれど、要は、掌にツバを吐いて握手しあうような、そんなニクい友情の話なのです。大切な人がどんどん死んだりします。なにせアールド・ジュニアは、14歳だっていうのに今までに42回も葬式に参列したことがあって、その人たちの死因の90パーセント以上が酒がらみ、なんて地域で育っているのです。みんな飲んべえで、むちゃくちゃで、みじめったらしくて、親が暴力をふるうとか、警察に捕まっているとか、そんなことが当たり前の世界。だけれど、そこにいる誰もかれもがクソッタレなやつらなのかっていうと、そうでもないのです。こんな場所にいれば、少年が希望を失ってしまうのは当然のこと。ここから脱出をはかれるかどうかが未来をわけます。ただ、ここは唾棄するだけの場所じゃない。愛すべき仲間たちとの場所でもあるのです。そんな生まれ育った場所への愛憎が切なく、そして、どうにもカッコいい友情の物語が本書です。

本を読んでいるだけで「変人」と呼ばれるような地域に育ったアーノルド・ジュニア。そこは貧しいインディアン保留地。ささいなことで暴力がふるわれるような荒れた場所。将来への希望はなく、与えられているものは「諦め」しかない。愛情に満ちた家族たちに囲まれて育ったとはいうものの、父さんはアル中だし、すごく頭の良かった姉さんでさえも大学にもいかないし、職にもつけずにフリーズしたまま。こんなスラムめいた場所では、誰も貧乏から抜け出せない。貧しい保留地のあまりの閉塞感に、学校でちょっとしたヒステリーを起こしてしまったジュニアは、変わり者の数学の先生から、この場所を抜け出すことを示唆されます。そして、彼はこの保留地で暮らしながら「白人」のエリート学校に通うことを決意するのです。30キロ以上の遠距離通学をして、ほとんどの生徒が大学に進学する「白人」ばかりが集まっている学校。そこにインディアンのジュニアが一人で通う。これはもはや大冒険です。案の上、新しい学校では差別され、そして保留地では裏切り者と呼ばれます。水頭症のデカい頭を抱え、片目は近視で、片目は遠視、足なんか29センチもあるジュニア。まあ、色々とやっかいなことはあるけれど、それでもめげてはいません。ジュニアは個性的な白人たちと出会い、仲間となって、友情を育んでいきます。そして、インディアンの悪友との友情も少しずつ回復させていくのです。威勢が良くて、それでいてナイーブなジュニアの独白と、挿入される彼の描く漫画が面白い。沢山の図書賞を受賞した『はみだしインディアンのホントにホントの物語』。「ホントにホント」のリアルは甘くないし、重たいことばかりだけれど、それに挑んで見事に突破していくユーモアあふれる物語です。

ジュニアが持っている「タフ」という美意識が面白いのです。「男はタフでなければ生きていけない」となれば、「優しくなければ生きている資格がない」がついてくるのは常套ですが、脆弱ではいられない土地柄で育った少年は、タフであることの意味を強さに見出しています。それは、孤独と疎外感に負けないようにするためかも知れない。これ見よがしな傷跡こそがタフであることの証し。ところが、タフっていうのは、それだけじゃないんですね。当初は、差別的なヤツだと反発していた白人少年の意外な優しさや寛大さに思わずぐっときてしまったり、白人家庭が自分たちの家族のような結びつきを持っていない寂しさを感じとってしまったり。ジュニアは重い扉を自分の手で開き、新しい世界を吸収していきます。そして、外の世界を知ったからこそ、自分の生まれ育った場所の良さもはっきりと見えてくるのです。ジュニアの地元の親友であったラウディは、保留地の学校を捨てて、白人たちの学校に通うようになったジュニアのことが我慢できません。壊れた友情は憎しみにかわり、二人は対立するようになります。でも、実は心の底では認め合っている。口では悪口をいいながら、それでも、もう一度、手をつなぎたいと思っている。無論、そんな気持に、お互いに「ホモじゃねえのか」と悪態をつきながら。生まれ育った町へのジュニアの愛憎や、ラウディへの屈折した友情が実に愛おしく、二人だけで日が暮れるまでバスケットボールを奪い合う、美しいラストシーンにすべてが結実していきます。ハッとさせられるような真理の言葉に虚をつかれてしまう、実にニクい一冊でしたよ。おすすめです。

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