ロス、きみを送る旅

Ostrich boys.

出 版 社: 徳間書店

著      者: キース・グレイ

翻 訳 者: 野沢佳織

発 行 年: 2012年03月


<  ロス、きみを送る旅   紹介と感想>
ガムシャラに   無茶してこその   十五歳男子(字余り)。突然の交通事故死。もしも親友がトラックにはねられて死んだとしたら何をすべきか。こんな時、見境もなく記念碑的な行動に出るのが十五歳男子というものです。後先を考えず、けっして冷静にならず、内なる衝動に身をまかせて突き進むべきものです。親友のロスを交通事故で失ったブレイク、シム、ケニーの三人の少年たち。いまだにロスが死んだという事実を受け入れられません。しかも、ロスは自分から自転車でトラックに突っ込んでいったのではないかと疑われているのです。ロスが自殺なんて、そんなことがあるはずがない。おれたちだけが、本当にロスのことをわかっているんだ。三人はロスの無念をはらそうと、手始めにロスに恥をかかせた教師や、ロスを殴ったいじめっ子や、ロスを振った元彼女の家に、ペンキで落書きをして思い知らせてやります。そして、あの欺瞞に満ちた心ない葬式をやり直すために、自分たちの聖地に向かうのです。生前、ロスが行きたがっていた場所。スコットランドの北の海辺にある、ロスと同じ名前の町「ロス」です。そこでおれたちが本当の葬式を行おう。そう誓い合った三人は、火葬されたロスの遺灰の入った壺を盗み出し、一路、「ロス」を目指します。しかし、イングランドからスコットランドへの長い旅の途中、思わぬトラブルに見舞われてしまいます。果たして、三人は無事、「ロス」にたどりつくことができるのか。少年たちの熱い友情の物語が幕を開けます。

ロスの遺灰を抱えた三人の旅は続きます。途中、持ってきていたリュックを失くし、旅費がなくなるという想定外の問題が起き、途中下車をよぎなくされた三人でしたが、色々な人たちとの出会いがあり、助けられながら、なんとか先に進んでいきます。お金をかせぐためにバンジージャンプをやるハメになったり、可愛い女の子たちのグループとの出会いがあったり、遺灰を盗んだまま行方不明になっていることがニュースで報道されて追われる身になったり、ハラハラさせられながらも、ロード小説ならではの楽しい道中記は続きます。ところが、旅の終わりが近づくにつれて、ストレートな熱い友情物語の主人公だったはずの三人の心の闇が明らかになってきます。ロスが自殺をしたのではないかという疑念。そして、その真実。三人は、それぞれ、ロスにひどいことをして、ロスを貶め、ロスを見捨ててしまったという自責の念にかられていました。親友としてロスを弔いたいという気持ちは嘘じゃないのか。ただ自分が楽になりたいだけじゃないのか。互いに不信感を募らせながら、三人はこの旅のゴールを目指します。たどりついた時、そこには、いったい何が待っているか。そして、この物語は、熱い友情物語のままでいられるのでしょうか。

恋愛と同じように、友情もまた永遠不滅のものではありません。有効期限が垣間見えるところに、友情を描く物語の、文学的な余白があるのではないかと思います。とくにそれがお互いの信頼に基づいた熱い友情であればあるほど、終わりが見えてきた時の失意は否めず、それがまた深い感慨を呼び起こすものと思います。「みんな仲間だ、仲良しなんだ」の友だち賛歌だけでは、文学にはなりえないのだと、儚くも思うのです。僕がキングの『スタンドバイミー』が好きなのは、あれが友人たちとの最後の冒険であり、この先、それぞれ進むべき道が分かれてしまうことを、なんとなくわかっている感じがいいんですね。この物語の三人もまた、十五歳にして、自分たちは違う社会階層に入って、バラバラになっていくだろうということを予感しています。もしかすると、ロスがいなくなったことで、三人をつないでいた絆も消えかかっていたのかも知れません。前半の熱い友情に燃えた少年たちの血気さかんな決起が、実は、友情の炎の最後の輝きであった、というのは邪推かも知れませんが、ストレートな友情物語ではないところに、この作品の真価を見るし、魅力を感じます。このところの日本の若者に「けっして地元を出ず、地元の友だちと生涯つきあっていく」志向性が強くなっているというレポートを良く見かけます(2014年現在、地方の若者のマイルドヤンキー現象とか言われています)。物語はともかく、実際には、そういう地域密着型の「永遠の絆」もあるものかも知れません。僕みたいに、友だちとはすれ違い、孤独をこじらせることが青春のデフォルトだ、なんて言っていると、真っ直ぐな作品が好きな方からはお叱りを受けるのですが、手放しの友情賛歌よりも、心のかすかな触れ合いと共感に、ささやかな友情を見つけるタイプの物語の方が僕は好きなので仕方がないのですね。

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