13の理由

Thirteen reasons why.

出 版 社: 講談社

著     者: ジェイ・アッシャー

翻 訳 者: 武富博子

発 行 年: 2009年03月


13の理由  紹介と感想 >
とてもミステリアスなストーリーです。だんだんと物語の仕掛けがわかってくるところに緊迫感があり、それが楽しみな読書なので、あまり内容を説明してはいけないのだけれど、それでも書くのかレビューを。まず、主人公である高校生、クレイのところに差出人不明の小包が届きます。内容は、2週間前に自殺した同じ学校の女の子ハンナが生前に吹き込んだ7本のカセットテープ。そこには生前の彼女に関わりのあった人たちのことが語られていて、どうやらテープは、そこに登場する人たちに順番に回送されているようなのです。彼女の自殺した理由がクレイには心あたりがないけれど、これが送られてきたということは、少なからず自分は彼女の死と関わりがあったということだ・・・。ということで、クレイは今どき珍しいカセットテープという媒体で、ドキドキしながら、彼女の死に至る経緯を聞かされるハメになるわけです。だんだんと明らかになってくる彼女の死の真相はクレイにとって驚くべき内容で・・・という展開は、是非、ご一読いただきたいところ。書体のせいで、やや読みにくいのですが、ぐいぐいと読まされる作品です。理論社にミステリーYAというレーベルがあって、何作か読んだ中では、いまだにアタリの作品がなく、ミステリーとYAって馴染まないのではないか、と思っていたのですが、本作を読んで、こういう試みもアリだなと思ったのでした。面白い。

自殺した少女ハンナは、あらぬ噂のために自分の像が歪められていくことに傷ついていました。「自分が人からどう思われているか自分でコントロールしたい」という願望を持っていたにもかかわらず、勝手なイメージで人から見られてしまっていたのです。セルフイメージと周囲の評価がズレるなんて良くあることだけれど、彼女の噂は許容範囲を越えていました。「身もちが固い」はずの自分なのに、「軽い女」だと言いふらされている。本当はどうであるかより、どう扱われるか、の方が重要だというのは対人関係の真理で、そう思われてしまったら、そういう人間にオトシメられてしまうのです。男子が気軽にセクハラを仕掛けてくるのは、自分が「そういう子」だと思われているからだ。ナイーブなハンナには、それがとてもショックでした。忍び笑いされることの苦痛。カセットテープに吹き込まれていたのは、同じ学校の生徒たちから、自分はどんな仕打ちをうけたかというハンナの告白。誰も彼女の瀕死の精神状態に気づかなかった。そして多くの人たちの小さな裏切りが、すこしづつ彼女の心の堤防を決壊させていきます。クレイは、テープの彼女の声が自分の名前を告げるのを待ちながら、ほんのわずかに彼女とすれ違った時間を回想していくのです。

死んだ人のことは取り返しがつかず、そこから始まる物語は、救いようがありません。どこかの時点で彼女が出している自殺のサインに気づいて、誰かが止めることができなかったのか。真面目な優等生であるクレイは、このテープを聞きながら、後悔に打ちのめされます。このどうにもならない置き土産を、彼はどう消化したらいいのでしょう。長編の遺書を作成して、死後の周到なサプライズ計画を立てるハンナは妙にエネルギッシュです。「ある程度、元気がないと死ねない」という逆説を医者から聞いたことがあります。実際、重度のウツ状態だと、死ぬ気があっても行動に移せないのだそうです(なので回復期のほうが自殺の危険度が高い)。彼女は、どこからか病気の領域に入っていたわけで、入院させる必要があったのだと思います。カウンセリングよりも、まずは化学療法と休養が必要だったのではないか、と対処方法を思います。無論、誰もそれをできなかったわけですが。思春期の繊細さに殉死するというのは自己劇化が過ぎます。オーバーヒートなら冷却することが可能だったのではないか。この不合理は納得しがたいし、腑に落ちません。死んだ彼女から渡されたバトンに翻弄される登場人物たちは、一体、どうしたらいいのか。過去は変えられないし、これからできることがあるのだろうか、と途方に暮れてしまいます。思春期の孤独の葛藤が痛々しく伝わってくる作品で、その納得しがたい破滅的なところもティーンの共感を得るのでしょう。せめてこの物語の想定読者であるリアル思春期の子たちに、生きる力が与えられればいいのだけれど。

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