おちゃめなふたご

THE TWINS AT ST.CLARE’S.

出 版 社: ポプラ社

著     者: イーニッド・ブライトン

翻 訳 者: 田中亜希子

発 行 年: 2022年12月

おちゃめなふたご  紹介と感想>

名作の新装新訳での刊行ですが、同出版社の旧装旧訳も並行して販売され続けているので、復刊というわけではありません。「キミノベル」レーベルからの刊行ということで、さらにまた現代(2023年)の子どもたちの目に触れやすくなったのは嬉しいところです。まずは、40年を経ての新訳ということで、本作がどう変わったのかが気になりました。旧版の田村セツコさんのファンシーな装画やイラストがとても素敵なのですが、今となっては時代を感じるもので、これが今風のイラストになっているあたりも驚かされます。キャラクター紹介がイラストつきであるのもイメージがわき親しみやすいですね。巻末の解説では翻訳者の田中亜紀子さんが「おちゃめ」という言葉について解説されています。そうか、子どもたちには説明が必要な言葉になっているということ自体が感慨深いです。茶目っ気や、おちゃめという言葉は次第に使われなくなっており、現代の子どもたちには遠いものになったのかも知れません。ウェブスターの「Just Patty」が1973年に翻訳刊行された際に『おちゃめなパッティ』というタイトルが付けられていました(2004年に復刊ドットコムから復刊された際は『女学生パッティ』の方が底本だったかと)。『長くつ下のピッピ』にも『おちゃめなピッピ』の題での翻訳があったかと思います。おちゃめの限界点についても考えさせられるところです。本書の旧訳版では「ラクロス」に注釈が入っていたのですが、40年という時代の隔たりは表現のそこかしこに見受けられるので、読み比べてみるのも楽しいかと思います。特に女の子たちの話し言葉の変化を意識させられます。今回の新訳は、現在の感覚で非常に読みやすく自然で違和感がありません。翻訳作品はこうして、何度でも息を吹き返すことができるのが良いですね。『おちゃめなふたご』は強い思い入れを持っている方たちも多く、旧タイトルそのままで再刊行してもらえたことを大変、嬉しく思っています。ということで、「おちゃめなふたご」の活躍を描く、本書の再デビューを祝いたいと思います。

オサリバン家の双子の姉妹、イザベルとパットことパトリシア。十四歳になった二人は通っていたお嬢様学校、レッドルーフス学園を卒業しました。この後はセントクレアズ学園に編入することが決まっていましたが、友だちと離ればなれになってしまうことや、どんな家の子でも入学できる庶民派の学校であることに不満を抱いていました。寄宿舎の部屋だって六人以上で使うのです。レッドルーフス学園では二人で生徒会長をつとめ、それぞれテニス部とホッケー部の部長だったイザベルとパットは下級生からも憧れられる存在でした。それなのに、セントクレアズでは一番下っ端の最下級生。その上、ホッケー部はなく、ラクロスをやるというのです。決して馴染むものかという思いを抱いて、セントクレアズに飛び込んだ二人の態度は「つんつんふたご」と呼ばれるほどでした。レッドルーフス学園に比べるとなにかと制約があり、なんでも自分たちでしなければならない窮屈な生活。とはいえ、同じ学年の子たちとの学校や寄宿舎生活は、次第に双子を、ここでの暮らしに馴染ませていきます。真面目な先生をからかって、大いに反省することになったり、寄宿舎で真夜中のパーティーを開催したり、隠れて町にサーカスを見にいったり、ひそかに寄宿舎で犬を飼ったり。個性的な同級生たちや先生たちとの交流の中で、次第にこの学校を好きになっていく二人。最初は尖った態度に敬遠されていた二人も、その正義感の強さや心意気に、次第に周囲の信望を集めていきます。色々な事件やトラブルを乗り越えて、ラクロスの試合やクリスマス会の劇などの楽しいイベントも経験ししながら、二人は、いつの間にか、この学校を大好きになり、離れがたい思いを抱くようになっていきます。そんな二人の気持ちの変化や、学校の仲間たちとの信頼関係が築かれていく様子が微笑ましく、この1941年に書かれたき古き良き女学生生活に憧憬を抱いてしまう、なんとも魅力的な物語です。

非常に潔いスピリットに溢れた物語です。ズバズバと遠慮なく物を言い、人に文句をつけることも辞さない女の子たちの闊達さは、ネチネチしたところがなく、その気性は実に真っ直ぐなのです。女の子たちは、かなり過激なイタズラもします。真面目で大人しいケネディ先生の授業で爆竹を破裂させたり、先生が苦手なネコを教室に連れてきたり。真夜中のパーティだって、羽目を外しすぎでしょう。それでも人を傷つけたり、自分が間違っていたと気づいたら、素直にちゃんと謝るのです。そして、それを寛大に許しもらえます。この「寛容」の精神が実に良いんですね。いや、人のお金を盗む子がいたり、かなり嫌な態度をとる子もいるのです。これは許されないよなあ、と思うようなことでも、わりと鷹揚に受け流されます。もちろん真摯に反省し、その後の態度を改めるからなのですが、この一切、根に持たない女の子たちの態度には驚かされます。当初は反目しあっていても、ちょっとでも認め合えれば仲良くなれる。それがセントクレアズ学園のスピリットであり、その価値観を醸成しているのが彼女たち自身なのです。そこにある誇らしさ。明るく楽しい学校生活は、そんな健全な心意気に支えられています。当初は、セントクレアズ学院に反抗的だった二人は周囲から浮きあがりますが、絶対的な味方として支え合える双子の心強さがあります。怒りっぽいパットをイザベルがフォローするコンビネーションや、二人で入れ替わったりする双子ならはの展開もあるのですが、物語が進むと次第に双子であることが意識されなくなり、だんだんセントクレアズというこの学校の子たちという集団全員が主人公のようになっていくのです。それもまたいつか見た少女小説の心地良さですね。本書の旧版と同じくポプラ社文庫に収録されている『すてきなケティ』などの名作にも再びスポットが当たり、かつての少女たちが再び現代の子どもたちの心の友になってくれたら良いなと思っています。