エマ・ジーン・ラザルス、木から落ちる

EmmaーJean Lazarus fell out of a tree.

出 版 社: 主婦の友社 

著     者: ローレン・ターシス

翻 訳 者: 部谷真奈実

発 行 年: 2008年09月


エマ・ジーン・ラザルス、木から落ちる  紹介と感想 >
エマ・ジーン・ラザルスは変わった子です。どれくらい変わっているかというと、「変わってる」と同級生に言われても意味がわからず、家に帰って、お母さんと一緒に辞書を引いて、ああ、その通りだな、と納得し合う、というぐらいの変人ぶりです。学校に馴染むとか馴染まないとか、そんなことは問題ではなく、理不尽な情動に踊らされている同級生たちを、穏やかに見守る理性的な観察者として生活しています。ミスタースポックみたいですね。そんな七年生です(中学一年生でしょうか)。でも、感情がないわけでも、冷たいわけでもない、優しく慈愛に満ちた子でもあるのです。素敵な両親にすこやかに育てられて、まっすぐな気持ちのまま成長したエマ・ジーンは、現代の学校ではちょっと波長が合わない子になってしまいました。数学者だった最愛のお父さんが死んでしまって、今はお母さんと、下宿人の大学院生、料理名人のインド人青年ヴィクラムと暮らしています。珍しく同級生が抱えた問題の相談を持ちかけられたエマ・ジーンは、彼女なりの一風変わった好奇心から、「理不尽な感情が渦巻く、普通の人たちの世界」に一歩踏み出していくことを決意します。ただし、彼女なりの方法で。この方法が、かなり普通とはズレていて、更なるトラブルを生みます。ちょっと漫画チックなキャクラターたちのドタバタした物語ですが、なかなか楽しく、愛しいのです。そして、エマ・ジーン・ラザルスは「木から落ちる」のです。物語の中で、彼女は、本当に木から落ちるのだけれど、このタイトルが象徴するところは何か。変わり者の少女の世界観が揺るがされる、そんな心の成長のステップ。洒落たエピソードや、細かい描写や、ちょっとしたユーモアが実に楽しい、ささやかな物語なのです。

変わった女の子。といっても、スター☆ガールのような暴走型ではなく、アメリの大胆不敵さ+柳沢教授(少年時代)の観察力を持ち合わせた理知的な少女、という感じでしょうか。どちらにしても、思春期の過剰な自意識を持てあまして葛藤する、というタイプじゃなく、天然のズレっぷりで俗世を超越しているのが魅力的です。そして、危なっかしい、というより、かなり危ない子。冷静な判断のもと、平然とムチャな作戦を立てて実行してしまう。無論、本人が思っているほど完璧ではないので、色々と問題を発生させてしまうのですが、窮地に陥ることはなく、周囲の「見えざる手」のおかげで、問題をクリアできてしまうのは、彼女の人徳かも知れません。つい同級生たちと「関わってしまった」がために、これまでのエマ・ジーンの信じていた世界観は少しずつ崩れはじめます。いえ、本当は、薄々、感づいていたのに、気づかないふりをしていただけなのか。冷静なフリをして過ごしてきた日々は、果たして、本当の自分だったのか。アイデンティティ・クライシス。それが、木から落ちた、エマ・ジーン。でも、それは、自分の新しい可能性を見つけ出すことなのかも知れない。ドタバタし続ける同級生たちのキャラクターもコミカルで楽しく、激しく悩んでいるわりには単純だったりするんだけれど、そんな単純さに、エマ・ジーンが救われることもあるんですね。原書は続編が刊行されているそうで、次のステージに進んだエマ・ジーンにも期待したいところです。本当は、あまり変わらないまま、突っ走って欲しい、なんて思ってしまうのだけれど。

自覚はないのですが、僕も「変わっている」と、言われることがありました。大学生の時、担当教授に「君は絶対、会社員に向いていないから」と断言され、会社に入ったら入ったで、やはり「君は、変わっている」と言われてきました。どうも、この「変わっている」という、ニュアンスが「マトモじゃない」という感じなので、いささか傷つきました。どこが「変わっている」のか。未だにわからないのですが、心外だなあ、と思っています。ということで、同じく「変わっている」と一刀両断されてしまいがちなYAの主人公の少年少女を心の友に、読書の慰めを満喫しているのです(変わってるのか?)。

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