リサイクル

Recycled.

出 版 社: さ・え・ら書房

著     者: サンディ・マカーイ

翻 訳 者: 赤塚きょう子

発 行 年: 2005年12月

リサイクル  紹介と感想>

環境問題への意識が高い企業であることが、製品を選ぶ基準になること。ESGやエシカル消費などのキーワードが、ビジネスの世界でも大いに謳われるようになった現在(2022年)です。ユネスコが提唱する継続的な開発目標であるSDGsに対する社会の関心の寄せ方も、旧来の環境問題やエコロジーへの取り組みを大いに越えたブームになってきています。図書館向けの図書の販売業務に携わっていた頃、さ•え•ら書房のYさんが、今のように一般的になる前から、SDGsについて熱心に説いておられたことを思い出します。さ•え•ら書房さんは、児童文学のみならず、学習関係の刊行物も多いのですが、本書は、環境問題啓発×児童文学として先駆的な作品です。SDGs×児童文学の企画シリーズなども刊行されるようになった昨今ですが、過去にもこうした問題意識の高い作品があったのです。本書は、タイトル通り「リサイクル」による環境保護に主人公の少年が取り組んでいく物語です。環境問題に急に目覚めた彼の実践活動が次第にエスカレートしていくあたりが面白いところで、真面目なんだけれど、どこかズレているあたりがユーモラスです。また、ひとつの信念に基づいて行動することのバランス感覚についても考えさせられます。資源のムダは無くすべきですが、便利な生活を手放すことは痛みを伴います。そこは、心身ともに豊かな生活とは何か、ということを考え直す良い機会でもあって、浪費の上に成り立った豊かさではない価値観を見出していくことも問われています。ここ数年の環境問題への意識の変化は著しく、前述したように、それがビジネス上の意思決定を変えるほどに拡張されてきました。ということで、本書の捉えられ方もやや変わるのではないかと思います。児童文学としての妙味もある作品ですので、是非、今こそ読んでもらいたい一冊です。

リード先生が黒いゴミ袋の中身を教室でぶちまけたことから、コリンの人生は変わります。今学期はゴミについて勉強しようと宣言したリード先生は、生ゴミをつまみ上げ、このゴミはどこへ行くのかと生徒たちに問いかけます。ゴミを埋めるのではなく、資源として再利用するリサイクルこそが解決策だと訴えます。この先生の主張がコリンの腑に落ちたのは、学校帰りに、猛スピードで走ってきた車からゴミを公園に投げ捨てるスキンヘッドの男と遭遇したことからです。ここでコリンは「このままでは地球はだめになってしまう。手遅れにならないうちになんとかしなければ」と決意を固めたのです。こうしてエコロジーに目覚めたコリンはゴミの調査を開始し、いかにゴミを減らすかを考え始めます。牛乳をビンで配達してもらうこと、缶詰はすべてやめることなど、まずは身近なところから。そして、クラスで見学に行ったローズビュー•ゴミ救出センターで、リサイクルに携わる人たちのゴミをなくすことの理想にもコリンは感化されます。リード先生はさらにグリーンピースの人を招き、今、資源がどれほど無駄に使われているかを生徒たちに聞かせます。子どもでも、企業に手紙を書いたり、抗議運動ができる。自分たちにもできることがあるのだと知ったコリンは、家に帰ると、母親が使っている、動物実験された化粧品をすべて処分してしまいます。堆肥を作るためにミミズを飼うなど、エコ戦士として次第にエスカレートしていくコリンのリサイクル魂は、より大きな問題へと向かいます。どうすれば、ゴミを出さない町にできるのか。世界中の熱帯雨林が消えるのをどうしたら妨げられるのか。物語はやがて住宅地の拡張のために閉鎖されるゴミ救出センター存続のための抗議運動でクライマックスを迎えます。「捨てるな、使え、利用しろ」「リサイクル!」のシュプレヒコールが鳴り止まない中、さらに大きな事件が起きて、と加速度を増していくお話です。

極端なことを言えば、文明的な暮らしを完全に放棄することで、自然環境は守られます。とはいえ、プラスチックのストローはなくても良いのですが、飲みにくいし不便だという気持ちは否めません。ここが我慢のしどころです。また個人レベルではなく、もっと社会レベルでやるべきことはあるのではないかという気運にもなっているかと思います。大量の食糧廃棄問題などのニュースを見ると、もっと組織が賢明な施策をとれば、防げることではないのかと思ってしまいます。いえ、こうした問題がニュースとして頻繁に報道されるようになったことも社会の成熟でしょう。ということで、冒頭に書いたような、環境問題を考えている企業の製品を積極的に支持することで、社会を変えるという考え方が出てきました。個人がそうした形で環境保護を推進できるのです。企業が営利一辺倒では立ち行かなくなってきたわけで、この物語が書かれた頃とは、随分と時代が変わったことは確かでしょうね。さて、この物語の面白さは、やはりコリンの「目覚め方」の甚しさです。リード先生もかなり扇動的ではあるのですが、クラスの中には、あまりゴミ問題に関心を持っていない子もいます。特に変わったところのない普通の子であったエリンが、良いことではあるにせよ、何故、ここまで意識改革されてしまったのか。お父さんは失業中で、お母さんが不動産仲介の仕事で稼いでいるものの、忙しさにかまけていて、浪費的でイージーな生活になりがちです。お姉さんの関心もモデルになることと、そのためにダイエットをすることです。バラバラな家族の中で、使命に目覚めたコリンは、どんどん自尊心が強くなっていきます。もはや好きな女の子に振り向いてもらうことだって、どうでも良くなっていくのです。このエスカレートの仕方はやや怖いところもあります。自分の信じる正義を過信しずぎないことも肝要ですが、少年時代のこうした高揚感もまた得難いものなのですよね。家族の再生もまたこの作品のテーマでもあり、環境を守ることが、人との繋がりを豊かにすることに繋がるのもまた良し、なのです。