見た目レンタルショップ 化けの皮

出 版 社: 小学館

著     者: 石川宏千花

発 行 年: 2020年11月

見た目レンタルショップ 化けの皮  紹介と感想>

人の「見た目」をレンタルしてくれる店、それがレンタルショップ「化けの皮」です。一定時間、他の人間の外見を装うことができる。その仕組みは、スーパーメイクアップを施してくれるなんてものではなく、もっと超常的な力を活用するものですから、利用者としても俄かには信じられません。でも、ここではそれが実現可能なのです。自分が希望する「見た目」をしたレンタルショップの店員と、身体と心を一瞬にして入れ替える。店員は変幻自在で、どんな外見になることもできるのです(どうやら得意不得意はあるようですが)。制約条件は、犯罪行為を行ってはいけないことと、入れ替わった後の自分の外見をしたレンタルショップの店員が、近くにいなければならないということ。利用者としては、そばに本来の自分の姿をした人間がいいるところで別の人間を演じることになります。さて、人はこのサービスをどう利用するのか。自分の今の「見た目」ではできないことがある、という切実な思いを持ったお客さんが「化けの皮」にはやってきます。そして「見た目」を変えても、思ったようには物事は進まず、一方で思わぬ気づきを得ることになるというのが、この物語の面白さです。自分の「見た目」のせいで、出来ないことがあると思うのは、人に「見た目」で判断されているという思い込みがあるからです。自分で狭くしてしまった世界を、新しい気づきによって拡げていく利用者であるお客さんたち。そんなレンタルショップ「化けの皮」、いったい、どんな人たちが働いているのでしょうか。

代々、妖力を持ったキツネを使役することができる血筋を継ぐ家系の末裔に生まれた庵路(あんじ)。離れて暮らしていた祖父が亡くなったことで、その使い魔であるキツネたちを引き取ることになります。もっとも庵路は、ちょっと頼りなく冴えない外見をした十八歳の普通の大学生です。庵路には、キツネたちの妖力を維持するために、その能力である化ける力を発揮させる必要がありました。そこで庵路が始めたのが、レンタルショップ「化けの皮」です。表向きは普通のレンタルショップですが、人の外見をレンタルするという特別なサービスも提供することで、お客様に喜んでもらい、店員であるキツネたちもその能力を開放することができるのです。さて、この店の噂を聞きつけて、「見た目」のレンタルを希望するお客さんがやってきます。地味な外見をした女子高生は、美少女の見た目をレンタルします。おしゃれなヴィンテージショップで、いつも店員に見下されていると感じていた彼女は、美少女の外見で店を訪れたらどう反応されるか試したかったのです。女装に耐えられる外見をとリクエストした熊のような外見の三十二歳の男性もいました。ファストフード店で騒ぐ女子高生たちを注意するために、かっこいい外見を必要としている十六歳の少年もいました。摂食障害の悩みを抱えている少年に近づくために、自分も痩せ細った身体の少年の姿を必要とした三十八歳も男性は、かつて同じ苦しみを味わっていた経験があったのだと言います。それぞれ自分本来の姿のままでは解決できない問題を抱えたお客さんたちは、借りた「見た目」の力で行動を起こそうとします。計算外なのは、レンタルショップ店員であるキツネたちの存在です。お客さんの元の外見に入れ替わった彼らの意外な行動が、思わぬ結果をもたらします。人は「見た目」か、「見た目」じゃないのか。もちろん「見た目」がすべてではありません。「見た目」を変えたことで、はじめて見えてくる世界がここに広がっています。

奇想の物語です。「化けの皮」に勤める四匹のキツネたちのキャラクターもまたそれぞれで、人間と入れ替わった時に思わぬ行動をとってしまうのも面白いところです。畠中恵さんの『しゃばけ』シリーズのように、頼りない若だんなのことを、妖たちが支える物語かと思いきや、店主の庵路は、その「見た目」に反して、なかかなか気骨のある青年です。キツネ使いの血を受け継いだ男子は、自分と関わった人間を不幸にするという資質を生まれながらに持っています。キツネ使いの祖父の娘である母親から、その事実を知らされた庵路は、自分の周囲で友だちが不幸になっていくことに合点を得ます。自分の父親が若くして亡くなったことも、それが要因なのかもしれない。となれば、庵路は人と距離を置き、孤独を選ばざるを得ないのです。自分自身の運命を見定めた庵路は、自ずと考え深い少年時代を過ごします。庵路の人からナメられがちな外見を、店員の子キツネである帆ノ香も最初は侮っていましたが、次第に彼の深謀遠慮に気づき、見直していきます。自分の外見は「見た目」で態度を変える程度の人間かどうかの試金石になる。冷静に人間を見つめる庵路は、かといって、まだ達観しているわけでもなく、等身大の青年として、悩み考えている姿こそが魅力的なのです。そんな実像が次第に「見た目」の向こうに見えてくるあたりが絶妙です。さて、どうせ「見た目」しか見られていないのだ、と思ってしまうこともまた、人を見くびっている証拠です。一方で、自分なりに好印象を持ってもらうために努力することは必要なのかも知れません。自分の「見た目」に縛られがちな人の心を解放する物語は、「見た目」だけにしか価値を置けない人間の「見苦しさ」や「みっともなさ」も教えてくれます。人間ならぬキツネたちそれぞれの観点や葛藤も相まって、とても考えさせる示唆に富んだ一冊となっています。