残された人びと

The incredible tide.

出 版 社: 岩崎書店

著     者: アレグザンダー・ケイ

翻 訳 者: 内田蔗

発 行 年: 1974年

残された人びと 紹介と感想>

未来。地球の大半を制服した「平和同盟」は、反対勢力に対して、武力攻勢を行おうとしていました。反対勢力の対空バリアーを突き破るための「磁力兵器」は、当代一の科学者、ブライアック・ロー博士に地球環境を大きく破壊するとの警告を受けていたのにもかかわらず、時の権力者たちは、ついに使用に踏み切ってしまいます。この最終兵器は博士が危惧したとおり、地球の地軸を捻じ曲げ、陸地を変動させ、大津波による大浸水を引き起こし、地球のほとんどの陸地を水没させてしまいました。この物語は、この「大異変」の後に地球上に生き残った「残された人びと」の5年後からはじまります。西半球の町オルメに住んでいた十二歳の少年、コナンは、大異変の日に脱出用ヘリコプターもろとも海の中に投げ出され、ただ一人、どことも知れぬ孤島に流れ着いていました。もしかすると自分が地球最後の生き残りかも知れないと思いながら自然の脅威と闘い、孤独な日々を送っていたのです。大異変の日に離れ離れになった、子どもの頃から教えを受けていた「先生」であるブライアック・ロー博士や、その孫娘で、動物と心を通わすことのできる不思議な少女、ラナの身を案じながら、この絶海の孤島で生き抜くコナン。やがて5年の歳月が過ぎ、コナンは孤島の自然環境に耐えうるたくましい青年へと成長していました。コナンがこの孤独の中でも希望を失わなかったのは、この島にたどり着いた日に『ほかの人間たちがおまえの助けを必要とするようになる』と心の内に響く声があったからです。ロー博士には人の心に言葉を届ける力があり、もしかしたら、これがその力だったのかも知れません。やがて、コナンのもとに、ラナが放ったと思われる一羽の鳥、ティキィがやってきます。再び、ラナに会えると希望をつないでいくコナン。しかし、コナンのもとに最初に現れたのは、かつてのファシスト「平和同盟」のパトロール船でした。船から降りてきた女性、ドクター・マンスキーと三人の男たちは、コナンにブライアック・ロー博士の行方を捜していることを告げます。彼らは、平和同盟なき後の社会を統一しようとしている「新社会」という組織の人間だったのです。彼らは、コナンを、労働力として、彼らの都市「インダストリア」へ連れていくことにしたのです。

コナンが案じていたラナもまたあの大異変を生き残り、「ハイハーバー」で暮らしていました。ハイハーバーは大異変の前に、沢山の子どもたちが空輸され、疎開してきた島です。ロー博士の娘夫婦(ラナには叔母にあたる)が中心となり、自然に還り、自給自足で生き抜いてきたハイハーバー。しかし、今日、ついに「新社会」の貿易船がこの島についたのです。指導者であるロー博士は行方不明であるため、団結に欠けるハイハーバーは、かつての子どもたちの中から、新たに勢力を持ってきたオーロにその主権を握られそうになっていました。「新社会」の貿易船のダイス長官と手を結ぼうとするオーロ。彼は、ハイハーバーに「新社会」の工業文化を取り込み、新たにここのリーダーになろうとする野望を持った青年でした。一方、インダストリアについたコナンは、ここが、極度の階級社会となっており、一級、二級、三級市民に分けられ、それ以下は、奴隷として額に十字の刻印を穿たれ、肉体労働に従事させられているのを知ります。コナンは、奴隷として船建造の労働を割り振られましたが、その現場を仕切っているパッチという隻眼の粗暴な男こそ、行方不明のブライアック・ロー博士でした。ロー博士は、粗暴で下劣な別人のフリをして、自分の知識を悪用しようとするインダストリアの新社会から逃れていたのです。事実を知らされたコナンは、博士に協力して、ハイハーバーへと逃げるための船の建造に携わります。しかし、いざ、逃げ出そうという段になって、インダストリアの地層が崩れ、半分が海に沈むことを予測してしまったロー博士は、多くの人命を救うために、自ら、名乗り出て、新社会の上層部に談判しようとします。果たして、ロー博士は「新社会」の人々を救うことができるのか。ハイハーバーは「新社会」から独立したままでいられるのか。そして、コナンとラナは、再び、めぐりあうことができるのでしょうか・・・。

宮崎駿さんの初期アニメ『未来少年コナン』(初回テレビ放映は1978年)の原作となった作品です。上記のようにアニメとアウトラインは同じなのですが、随分と設定が違っていたのだ、ということに驚かされます。この作品でのコナンは、アニメのような野生児ではなく、屈強で正義感はあるものの、意外とおとなしめの青年です。「ハイハーバー」も、博士が事前に避難させた子どもたちの島、という設定のようですし、この「新しい世界」で、誰がリーダーとなり、未来を作っていくのか、ということがひとつのテーマであり、コナンに「担わされているもの」も違います。荒廃した工業文明にすがる人々と、再び自然に還った人々。人間存在の根幹に迫る「神の声」。残された人びとが、いかに生きていくべきかが問われています。大異変を越えてきた人間たち、それぞれの内面の葛藤が浮き彫りにされ、新しい世界で生き抜いていくことの熾烈さも垣間見ることができる作品です。アニメのエンターテイメント性を思い出すと、思いのほか地味な印象を抱きもしますが、これはこれでなかなか深いものがあります。是非、ご堪能ください。

※復刊ドットコムの投票企画から2003年に重刷され、その後、新装版も刊行されています。