遠い親戚

Last of kin.

出 版 社: 岩波書店

著     者: ウーリー・オルレブ

翻 訳 者: 母袋夏生

発 行 年: 2010年10月


遠い親戚  紹介と感想 >
第二次大戦後のイスラエルのキブツで、他の子どもたちと一緒に集団生活を送っている十五歳と十一歳の兄弟。ホロコーストで家族を殺され、兄弟二人で生き残ったものの、頼るべき親せきもないまま暮らしていました。そんなところに舞い込んだ手紙は「お母さんのお姉さんの夫のお兄さんとその妻」からのもの。まさに「遠い親せき」(縁の濃さから考えると)からの便りだったのです。そのおじさんたちは、収容所の生存者名簿に兄弟の名前が載っているのを見て、手紙を送ってくれたのです。そのうち、この「遠い親せき」(地理的にはすごく遠くわけではない)は訪ねてきてくれるかも知れないけれど、なんだか、いてもたってもいられなくなってしまった二人は、直接、訪ねていくことにしました。とはいうものの、バスに乗るお金はない。そこで二人が思いついたのは、夜中に出発する牛乳配達のトラックに便乗させてもらうという作戦でした。途中、色々とありますが、果たして兄弟は、ちょっとした苦難の末、「遠い親せき」の家にたどり着きます。無論、二人はそこでとても歓待してもらえます。これは、ただ、それだけの話です。この兄弟が戦争でどんな目にあってきたか、ということを考え始めると、胸が塞がってしまいますし、今、現在の孤児としてのキブツでの暮らしもやや窮屈そうです。だからこそ、二人が、せっかく見つかった親せきなんだからいち早く会いたい、と純粋に思う気持ちも、けっこう胸に迫るところがあるんですね。兄弟のやりとりが、そこはかとなくユーモアラスで面白いのです。適当な距離感というか、けっしてベタベタしていなくて、いいたいことを言い合っていて、それでいて信頼関係があるような、不思議な間があるのです。実にリアリティのある兄弟の会話の描写でした。物語は、淡々と展開していき、大げさな感情表現もない。けれど、ちょっとグっとくるところがある作品です。作者であるウーリー・オルレブの自伝的作品でもあるそうです。